今の視点からは寝酒は決して睡眠の質を上げず、むしろ浅くする。昼寝は短時間であれば健康にいいが、長時間は避けた方がベター。腹九分目はやや食べ過ぎで、やはり八分。酒もよくないし、タバコは論外。それでも梅原は長生きしたのだ。

 食生活に目を向けると牛乳と油脂分を十分に摂取しているなど、他の長寿者と共通する点も多い。高峰秀子との対談によるとお腹を壊すとウナギと牛乳で治すとあるので、ウナギは相当好きだったのだろう。フカヒレとナマコに目がなく、フォアグラも好きだった。

本連載をまとめた新書が12月10日に刊行されます。ぜひご一読ください!『長寿の献立帖』 樋口直哉著 KADOKAWA刊

 美食は一般に体によくないと考えられている。中高年の生活習慣病予防という観点からは正しいが、高齢者にとって同じとは言い切れない。日本人の平均寿命はこの100年でほぼ2倍に延びたが、それには1965年頃から動物性タンパク質や脂質の摂取量が伸びたことで脳卒中患者が減少したことが関係している。若い時は節制し、年を取ったら贅沢するというのが賢い生き方なのかもしれない。

 よりバランスのいい食生活を送るには和食だけではなく、洋食や中華など多様性が重要だ。考えてみれば日本の芸術も西洋から学ぶことからはじまり、やがて独特の世界をつくった。外国の文化を貪欲に吸収し、自らのものにしていく。それが日本文化の強みであり、梅原の絵画はその象徴だ。

参考文献/『人間臨終図巻』山田風太郎著、『高峰秀子かく語りき』高峰秀子著

(小説家・料理人 樋口直哉)