明確な数字、根拠があるわけではないが、画家は総じて長生きだ。シャガールは97歳、ピカソは91歳、モネは86歳、ダリは84歳といった具合に。日本人画家では小倉遊亀は105歳、片岡球子は103歳と、とびきり長命な人物もいる。
さて、画家のなかでも特に日本人に愛されていると言われるモネが今回のテーマだ。
イラスト/びごーじょうじ
パリから電車とバスを乗り継いで1時間余りのジベルニーの村は彼が晩年を過ごした場所である。モネのアトリエ兼自宅は現在、庭園美術館になっていて室内を見学することができる。訪れる機会があれば是非、絵画や庭だけではなく広い台所とクロームイエローで飾られた食堂をのぞいてみてほしい。彼が食事にも情熱を注いでいたことがそこから感じとれるからだ。
貴重な資料が残っている。モネが書き記したレシピノートである。2000年にはそれを基に『モネの食卓』という本が出版された。レシピから読み取れることは、彼が旬の食材を大切にしていたことだ。前述の本の序文で料理人のジョエル・ロブションが「手入れが行き届いた菜園で収穫されるハーブや香辛料、南仏の野菜などには目がなく、マッシュルームを収穫するために早朝から作業を行うこともあった」と記している。モネは春になれば新タマネギを、秋になればキノコを食した。
といってもひと昔前はそれが自然だったのだ。栽培技術の向上などによってほとんどの野菜が年中、出荷されるようになったのは1980年代と意外と最近の出来事である。年中、野菜が食べられるのは便利だが、失われてしまうものもある。ある調査によると、旬の野菜に比べてそれ以外の時期に取れたものは3分の1しか栄養価がないという。