要約者レビュー
「3年以内離職率、3割」「一つの仕事が長続きせず転職をくり返す」。ゆとり世代の現状をこのように評する声は少なくない。彼らは一社に固執せず、あたかも自発的に「自分らしいキャリア」を追い求めているように見える。だが、ちょっと待ってほしい。彼らがそうせざるを得ない「見えないメカニズム」が社会全体で働いているとしたらどうか?
福島創太、270ページ、筑摩書房、860円
「自分らしいキャリア」。この言葉がまとう違和感の正体を突き止め、若者をさらなる転職へと駆り立てる社会構造そのものにスポットライトを当てたのが本書『ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?』だ。求職者の自己実現のための自律と、労働環境の変化に対する適応のための自律。若者は、これら両方の意味を含んだ「自律的キャリア」の形成を社会から促されているという。
本書ではこの経緯をたどりながら、転職を経験したゆとり世代への綿密なインタビューをもとに、彼らのキャリア意識を分析する。その後、転職をくり返す若者が将来に向けて蓄積していくリスクと、それを「自己責任」の一言で済ませる風潮に異議を投げかける。さらには、社会がこうした若者たちのキャリア形成をどう支援していくべきかを考察する。ゆとり世代と同世代である社会学者ならではの分析と提言には、真に迫るものがある。
ゆとり世代と一括りに論じられがちな若者が、いかに多様な葛藤を抱いて生きているのか。彼らのキャリアのリアルを知るのに格好の一冊だ。人事担当者や管理職といった、若者のキャリア形成を支援する人、そしてキャリア形成の当事者にぜひお読みいただきたい。(松尾美里)
本書の要点
(1) 若者は「自律的なキャリア」を描くよう社会から要請されており、これが転職意欲の後押しとなっている。
(2) 「意識高い系」の転職者は、理想のキャリアのために必要なプロセスを想定通りに進められないリスクを抱えている。また、「ここではないどこかへ系」の転職者には、スキルや経験が蓄積されず、劣悪な労働環境を許容するというリスクがある。
(3) 自律的なキャリア形成の背後に企業や社会の思惑が隠蔽されている。「自己責任化」を若年層へ過度に求めることから脱却すべきだと著者は提唱する。