株式投資に本格的に取り組みたいという人に推薦図書を問われたら、第一候補はバートン・マルキール著『ウォール街のランダム・ウォーカー』(井出正介訳、日本経済新聞社)だ。
原著の第4版を読んだ20年以上前からそう思う。俗説から理論まで含めた投資の考え方をていねいに追った好著で、ついでに、米国の株式市場の歴史もわかる。翻訳が何度か出ているが、最新版は原著の第9版を訳したものだ(2007年5月刊)。投資に関する考えを深める素材としてベストの1冊だ。
この本は、当初から一貫して、株式投資において市場平均に勝つことの難しさを説いてきた。これまで、テクニカル分析もダメ、ファンダメンタルズ分析もおおむねダメ、アノマリー(市場の例外的規則性)を利用した投資も長期間にわたって同じ戦略が有効ではないと切り捨ててきた。
これらに加えて、第9版では行動ファイナンスについて一章を割いて紹介し、検討していることが大きな特徴だ。
正確を期するためには本を直接読んでほしいが、マルキール氏の立場は筆者が読むに、(1)行動ファイナンスは投資家に有用な教訓を与えるが、(2)全体としてかつ長期的に市場は効率的で、(3)市場平均に勝つ運用を行なうことは難しいというものだ。筆者は(1)と(3)にはほぼ賛成するが、(2)については、別の考え方のほうが生産的ではないかと思っている。
マルキール氏は、アノマリーや行動ファイナンスを利用した戦略が、あるとき有効であっても、それが明らかになると、市場参加者による裁定が働き(たとえば模倣が発生して)、その戦略が有効でなくなると主張していくつかの例を挙げる。確かに、投資の戦略は、その有効性がデータで確認されればされるほど、将来の有効性が脆弱になる厄介な性質がある。