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名古屋で延々と続けられてきた市民税減税をめぐる市長と議会のバトルに、やっと幕が下りそうだ。河村たかし市長が12月12日、公約の10%減税を断念し、5%に圧縮する条例案を臨時議会に提出することを発表した。
減税条例案は、11月議会で10%減税の原案と7%減税の修正案が共に、財源不足を理由に否決された。このため、2012年度からの恒久減税の実施を悲願とする河村市長が大幅に譲歩し、勝負に出たのだ。減税幅を縮小すれば、12年度の収支見通し上での財源不足を避けられ、議会の賛同を得られるだろうと判断したのである。
記者会見で河村市長は「恒久減税は日本で初めてです。名古屋だけ減税するということで、輝かしい第一歩を築くことになります」と、語った。減税は実施することに意味があると力説したのである。臨時議会は12月21日に開会予定で、議会側の判断が注目される。
市民税の10%減税は、09年4月に「庶民革命」を掲げて初当選した河村市長の最大公約の一つ。だが、議会側の反対に遭い、一時は条例成立にこぎ着けながら1年限りに修正された。
その後は議会側と全面対決となり、10年夏に市長自らが議会リコールを主導するなど異常事態に突入した。そして、市長を辞職して臨んだ出直し市長選で圧勝し、さらには、市議選に自らが率いる「減税日本」の候補者を大量に擁立。庶民の既成政党への不信感を追い風に、議会の過半数を押さえることを目論んだ。
だが、過半数を取ることはできなかった。問題は数だけではない。新人議員は急きょ、出馬を決めた人ばかりで、準備不足が露呈した。市議選後に不祥事が表面化し、市民の減税日本への期待感は急速に縮んでしまった。“稼業議員”が“素人議員”に代わっただけだ、とのボヤキも広がった。
市民税恒久減税の看板も揺れている。なぜ、減税なのかの説明が変遷し、曖昧になっていった。庶民減税と言いながら、一律減税では金持ち優遇になると批判された。また、減税することで市の行政改革を加速させるとの説明も、説得力を失っていた。市長が議会とのバトルや各種選挙に力を傾注し、市役所内改革には汗を流しているように見えなかったからだ。
結局、議会との対立を延々と続けたことにより、市民税減税への市民の思いが冷めてしまったようだ。河村市長のある支持者は「とにかく恒久減税を成立させて、地に足の着いた政策をしっかりやってほしい」と語る。また、減税日本のある市議は「われわれ議員は市長の指示で動くだけの単なる起立要員にされている」と、嘆く。会派内で減税案について議論されたことはなく、市長の指示に従って動いているだけという。
庶民革命の大看板も揺れている。
(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 相川俊英)