EU全域において、
医療機器として使用可能に
このため、欧州全域においての販売ができるようになり、市場が一気に広がりました。国際市場を見据えたこのような取り組みは、一企業ではなかなか難しいことです。サービスロボットの市場を作り上げるという意味においても、国と企業が協力し合い成果を出したモデルケースとなりました。
次に、下肢に障害がある人や脚力が弱くなった人の治療機器としての「HAL®医療用(下肢タイプ)」は、2013年、EU全域における「医療機器指令(MDD)」への適合が認証されました。これにより、EU全域において、医療機器として使用することができることになりました。医療機器指令を通すことは非常に難しいといわれている中、「HAL®」が成功した理由はどこにあるのでしょうか?
それは「日本ですでに実績があった」というところです。
日本で「HAL®」が医療機器として認められたのは2015年のことですから、医療機器としての実績は実はありませんでした。しかし「HAL®」はすでに、医療用ロボットとして介護施設などで活躍を始めていました。そのため事例やデータが豊富に積み上がっていたのです。
日本では介護施設で使用する機器が「医療機器でなくてはならない」という制約がないため、医療用ロボットとして働くフィールドがあったことが幸いしました。
ヨーロッパで医療機器としての認証を得る際には、この事例やデータが役に立ちました。日本の介護現場でロボットが使えたという事実が、海外で認証を得る際の大きな助けとなり、それゆえ国際市場で販売するための一歩を踏み出せたのです。
「HAL®」の事例から、医療ロボットや介護ロボットを世界市場で展開する際の、大きなヒントが得られるはずです。
日本ロボット学会理事、和歌山大学システム工学部システム工学科教授。1973年生まれ。東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻修了。2007年より千葉工業大学工学部未来ロボティクス学科准教授(2013-14年、カリフォルニア大学バークレー校 客員研究員)を経て現職。専門は知能機械学・機械システム(ロボティクス、メカトロニクス)、知能ロボティクス(知能ロボット、応用情報技術論)。2016年、スイスで第1回が行われた義手、義足などを使ったオリンピックである「サイバスロン2016」に「パワード車いす部門(Powered wheelchair)」で出場、世界4位。電気学会より第73回電気学術振興賞進歩賞(2017年)、在日ドイツ商工会議所よりGerman Innovation Award - Gottfried Wagener Prize(2017年)共著に『はじめてのメカトロニクス実践設計』(講談社)がある。