「あの人の部署、なぜかどんどん人が辞めたりメンタル不調になったりするよね…」。組織のなかで、しばしば囁かれることです。しかも、往々にして、そういう上司は「あの人、仕事はできるんだけどね」「優秀なんだけどね」と言われることが多いものです。なぜ、このような現象が起きるのか? あるいは、自分がその”罠”にハマらないために、何に気をつければいいのか? 『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』の著者・櫻本真理さんにわかりやすく解説していただきました。
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メンバーを潰す、「優秀な」上司
「あの人の下って、なぜか人がどんどん辞めたりメンタル不調になったりするんだよね」
そんな上司は、近くにいないでしょうか。あるいは、あなたはそんな上司になっていないでしょうか。そういう人に限って、周囲から「あの人優秀なんだけどね」と言われていたりします。
なぜ、こんなことが起こるのでしょうか。それは「心理的リソース」という視点で考えるとわかりやすくなります。
心理的リソース=有限の心のエネルギー
私たちは、頭を使って考えたり、感情や衝動を抑えたり、意思決定をしたりすることに、常に心のエネルギーを使っています。この心のエネルギーが「心理的リソース」です。そして、それを使い尽くしてしまえば、やる気が出なくなったり、主体的に行動しづらくなったりするのです。
組織の中では、「上司」の存在が心理的リソースの増減に大きな影響を与えます。部下は、上司の機嫌が良ければ安心してやる気が出るし、不機嫌な態度を見れば「何が気に入らないんだろう」と不安を感じて心理的リソースをすり減らしたりするのです。
もし、メンバーが有限の心理的リソースを、上司のご機嫌うかがいのような「組織のゴール達成に役だたたないこと」に使ってしまっていれば、チームの成果は決して出ないことでしょう。
優秀な上司が心理的リソース泥棒になる理由
「優秀な」上司は、実は、メンバーの心理的リソース「心理的リソース泥棒」になってしまいがちです。ここでいう「優秀」というのは、頭の回転が早かったり、プレイヤーとしては優秀、という意味です。
自分自身が優秀な上司は、自分の成功体験ゆえに「自分が正しい」「自分ならできる」自分は正しく状況を認識している」ということを疑いません。それはすなわち、対立が起こったとき「相手は間違っている」「相手の能力がない」というフィルターで確信を持って見てしまう、ということなのです。
「相手が間違っている」という前提で世界を見ると、
「なんでこいつはこんなにできないんだ」
「なんでこんなに仕事が遅いんだ」
と苛立ちを感じてしまうのです。
部下の心理的リソースの消耗
そうなれば、部下は常に「自己否定感」や「不安・焦り」に苛まれることになります。
「自分は無能なんだ」
「相手に迷惑をかけてしまっている」
「上司の機嫌が悪い、どうしたらいいんだろう」
こんな何の役にも立たない思考のために部下が心理的リソースをすり減らしてしまえば、「目標達成のために必要な行動」や「成果につながる思考」に心理的リソースを割くことができなくなってしまいます。
心理的リソース泥棒となった「優秀な上司」の「最悪の口癖」とは
こうした「優秀な上司」の、最悪の口癖はこれです。
「なんでこんなことがわからないの?」
この口癖は、二重・三重の意味で部下の心理的リソースを奪います。
・「わからないのはなぜなんだろう」と思考する
・「上司の苛立ち」に対して不安を感じる
・「わからない自分は無能だ」と希望を失う
こんな消耗が継続してしまえば、メンバーは次第に心理的リソースを回復することが難しくなってしまいます。ネガティブな思考に脳が占領されてしまい、心理的リソースの回復に欠かせない「希望」や「自己効力感」が生まれなくなってしまうからです。
あなたは、無自覚のうちに「なんでこんなことがわからないの」といった言葉を部下にかけて、メンバーの心理的リソースを奪う「心理的リソース泥棒」になっていないでしょうか。
真に優れたリーダーは「対話」を促す
かわりにかけるべき言葉とは?
では、その代わりに、上司は部下にどんな言葉をかければいいのでしょうか。
それは、
「なんでこんなことがわからないの?」
などと、「部下がわかっていない」と決めつけるのではなく、
「今、どんなことに難しさを感じているか、もう少し聞かせてくれる?」
と問いかけることです。
このように問いかけると、もしかすると部下が「お客様のデータが足りないので、営業資料が書けないんです」と打ち明けてくれるかもしれません。その場合には、上司が必要なデータを用意してあげることで、部下をサポートすることができるでしょう。
あるいは、「どのような形で資料をまとめたらいいのかわからない」と悩んでいるのかもしれません。この場合には、「どうすれば、迷わず資料をつくれるか?」について対話を重ねることで、もしかすりと、組織として「資料の定型化」をすることで、どこに何を書くかを明確にするという「仕組み」づくりにつながるかもしれません。そして、根本的な問題解決につながることも期待できるのです。
そのために上司に求められるのは、「自分は優秀だ」=「自分が見えている景色が真実だ」という思い込みを捨てることなのです。
(心理的リソースについては、『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』に詳しく書いてあります)
株式会社コーチェット 代表取締役
2005年に京都大学教育学部を卒業後、モルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券(株式アナリスト)を経て、2014年にオンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社cotree、2020年にリーダー向けメンタルヘルスとチームマネジメント力トレーニングを提供する株式会社コーチェットを設立。2022年日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー受賞。文部科学省アントレプレナーシップ推進大使。経営する会社を通じて10万人以上にカウンセリング・コーチング・トレーニングを提供し、270社以上のチームづくりに携わってきた。エグゼクティブコーチ、システムコーチ(ORSCC)。自身の経営経験から生まれる視点と、カウンセリング/コーチング両面でのアプローチが強み。著書に『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』(ダイヤモンド社)。









