東京都内で公共トラックターミナルを運営する日本自動車ターミナルが大田区平和島に建設を進めている高機能型物流施設「ダイナベース」。2018年7月に完成するこの大型物流施設の賃貸借契約が竣工約1年前に100%成約となったことが大きな話題を呼んでいる。その中で、施設の2階から5階まで、延床面積にして5万㎡超という大型契約を結んだのが医薬品卸大手の東邦ホールディングス(以下、東邦HD)。同社はなぜ、ダイナベースを選び、医薬品卸業界でも最大規模となる大型物流センターを設置することを決めたのか。そこには、東邦HDの事業戦略、とりわけ災害時でも安定供給を維持することを使命とする医薬品流通業者としての矜持と、それを支える高度な物流戦略があった。(取材・文/『カーゴニュース』編集長 西村旦)
東日本大震災の発生当日も出荷
「医薬品という商品特性上、必要なモノを必要な場所や時間に間違いなく届けることは、経営理念という大それた言い方をする以前に“イロハのイ”。やらなければいけない当たり前のことだと考えている」。
濱田矩男
代表取締役会長 CEO
東邦HDの濱田矩男会長に、安定供給に賭ける思いを尋ねると開口一番、そのような答えが返ってくる。もちろん、医薬品流通における最大の使命が安定供給にあることは論を待たない。だが、「ただ言葉だけを口にするなら簡単だが、真の意味で実行していくことは難しい。安定供給を実現するためには、なにより物流がしっかりしていなければならない。当社はそのために、同業他社のどこよりもコストや労力をかけてきた自負がある」と語る。
実際、同社のこれまでの取り組みを振り返れば、業界の中でも頭ひとつ抜けた存在だという評価にも素直に首肯できる。
その象徴的な出来事のひとつが、2011年3月に起きた東日本大震災での対応だ。発災当初、被害や混乱で各社が出荷停止に追い込まれる中、同社の東京にある物流センターでは震災当日の夕方から問題なく出荷を続けたほか、当日夜には被災地である東北に向けて医薬品の緊急出荷も開始した。
その迅速な対応を支えたのが、同社が構築した強靭かつ柔軟な物流システム、そして平時からシミュレーションや訓練を繰り返すことで培ったBCP(事業継続計画)対応力だった。
東邦HDでは万が一の事態に備え、以前から東京と大阪の2カ所にデータセンターを構えてホストコンピュータを二重化。通常は東京のデータセンターで全国250カ所に及ぶ物流センター、営業所の在庫情報や受発注情報を処理しており、そのデータは常時、大阪のデータセンターに送られバックアップされる。そのため、仮にある物流センターや営業所が被災して機能不全に陥った場合でも、すぐに別の物流センターに機能移管して出荷できる態勢を整えることができる。
「東日本大震災の際も、福島にある物流センターは屋根が崩れるなどの被害を受けたが、すぐに機能を埼玉と東京の物流センターに移し、関東から被災地に向けて出荷できる体制を敷いた。混乱の中でも出荷機能を維持し、被災者の皆さんのお役に立つことができたのは、災害時の緊急対応こそが我々の義務だと考え、日頃から備えをしっかり行っていたからだ」と当時の状況を振り返る。