役所や病院、スーパー等で、耳が聞こえない人に対応する「耳マーク(筆談します)」が設置されている。だが、手話でコミュニケーションを取る、ろう者(聴覚障害者)の中には日本語の読み書きが難しい人がいることはあまり知られていない。手話で安心した暮らしが実現できるよう、8年越しの「手話言語法」の制定を、今こそ目指す。(医療ジャーナリスト 福原麻希)
手話を通訳するサポートサービスの
普及が広がっている
耳の不自由な方は、(1)生まれつき聞こえない、(2)生まれたときから、聞こえが悪い(わずかながら聞こえる)、(3)事故・病気・加齢で、途中で聞こえなくなった・聞こえにくくなった、の3タイプに大別できる。この中で、主に手話によってコミュニケーションを取る人は「ろう者」と呼ばれる。
昨年、全日本ろうあ連盟が発表した調査結果によると、「聞こえないから」という理由で、差別的な対応を受けた経験がある人は、回答者(811人)の87.4%にのぼった。
例えば、飲食店で予約や入店を断られた、不動産会社で家を借りられなかった、旅行会社でツアーに参加できなかった、遊園地でジェットコースターや観覧車に乗れなかった等の回答が集まった。
病院での差別的対応は、職場に続いて、2番目に多かった。
例えば、こんなエピソードを紹介しよう。
ろう者のある女性は大腸がんの術後、肺に転移したため、抗がん剤治療が必要になった。近年、抗がん剤治療は入院でなく、外来による治療が中心になりつつあり、点滴を受けたあと家に帰ることができる。だが、自宅で副作用が出た場合は、すぐ病院へ連絡して対応を相談しなければならない。このため、女性は医師にこう言われた。