このままAIが強くなったら
将棋人気は凋落するか?

名人戦第三局での佐藤天彦名人(左)と羽生善治竜王
名人戦第三局での佐藤天彦名人(左)と羽生善治竜王。5月8日、奈良市の興福寺にて Photo by Masao Awano

 将棋の基本情報をご理解いただいたところで、足もとで注目されている「AI」「ヒフミン」という2つのトレンドワードにも触れ、雑感を述べたい。

「そんな馬鹿な」――。昨年4月の対戦でいきなり頭を抱えたのは、佐藤天彦名人。対戦相手は人間ではない。AI「PONANZA」のアームが繰り出した一手目は3八金。自分の飛車(右にある)を左に動けなくし、閉じ込めてしまうあり得ない初手。初手は通常、角道を開くか飛車先の歩を進めるかだ。

 以前なら、弟子がそんな手を指したら師匠から「お前は定石の何を勉強してきたんだ」と一喝され、破門されかねない。しかしAIに「常識」など通用せず、名人は敗れた。

 AI恐るべし。羽生は「定石とか、これまで人間がやってきたものは将棋の一部でしかなかったのでは」と語っていた。少し前まで棋士にとってコンピューターは対戦相手ではなく、データを得るための手段だった。

 四半世紀前に千葉市で聞いた講演で、最年長の49歳で念願の名人位を射止めた米長邦雄九段は、「図書館に通うなど時間がかかった過去の棋譜調べがコンピューターで時間短縮できるようになっただけ。でもデータを多く持っているから強いわけではない。立派な広辞苑を持っているから名文が書けるわけではないのと同じですよ」と語っていた。

 しかし、その後はコンピューターが対戦相手になってゆく。有名棋士でまず機械将棋に挑戦したのが(挑戦を受けたというべきか)晩年の米長だったが、屈してしまった。

 AIについて、筆者は4年前、当時の谷川会長に「羽生さんと対戦させたりしないのですか」と聞いた。彼は「負けたりすることが、ちょっと心配なんですよ。将棋なんてこんなものかと思われないかと……」と正直に打ち明けた。その後、団体戦で人間側が敗れた際、「将棋連盟はお通夜のようだった」とPONANZA開発者の山本一成氏は回顧している。

 だが、ロシア人のチェスの世界チャンピオンは1990年代にすでにコンピューターに敗北している。それをもってチェス人気が下がったとは聞かない。コンピューターならミスもなく面白くない。やはり人間同士だから面白いのであって、いくらAIが強くなっても将棋人気が落ちるとは考えられないだろう。