レジェンド羽生が藤井に敗北
気になった竜王の「投了図」
5月18日、関西将棋会館(大阪市福島区)で行われた竜王戦ランキング戦5組準決勝で、藤井聡太六段(15)が船江恒平六段(31)に勝利し、規定により七段へ昇段した。
15歳9ヵ月での七段昇段達成は、「ヒフミン」こと加藤一二三九段(78)による17歳3ヵ月の記録を61年ぶりに塗り替えた。あの羽生善治竜王(47)でも七段昇段は20歳だった。筆者も当日取材に行ったが、藤井は勝った直後も「こんなに早く昇段できるとは思わなかった」と、いつものように奢らずに語っていた。
高校1年生とは思えない紳士ぶりに世間の藤井フィーバーは止まらないが、筆者が最も印象に残った取材は、今年2月に藤井が羽生と対戦した注目の一戦だった。そのときの様子をお伝えしよう。
藤井が準決勝で羽生、決勝で広瀬章人八段(31)を破って優勝し、五段から2週間で六段に昇段した2月17日の朝日杯オープン戦。筆者も『サンデー毎日』に観戦記を書いたが、気になったのは、藤井の4七桂馬で羽生が負けを認めた「投了図」であった。
通常、新聞などの投了図を見て、勝者がなぜ勝つことができたのかがわかる人はかなりの上級者。投了図から実際に玉(王のこと)が詰むまで何手もかかることもある。一般に棋士(プロのこと)は、みっともない棋譜は残したくないという「美学」を持っていることからも、勝ち目のない将棋は早く投了するものだ(どんなに自分が不利な状況でも、相手がミスするかもしれない、と粘る棋士もいるが)。ところがここで羽生が投了した図を見ると、将棋の初心者でも、羽生が藤井に勝ち目がなかったことがわかる。
この対局は東京・有楽町ホールでの公開将棋だった。高い入場料を払っていた観客には、舞台の2人は見えても盤面は見えない。盤面はスクリーンで映し出されていた。将棋の初心者も多い雰囲気。恥をかくかもしれないのに勝負を最後まで続けたのは、勝負の内容を少しでもわかってほしい、そして将棋のファンになってほしいという、羽生の国民栄誉賞受賞者としてのファンサービスだと思った。