アメリカのデトロイト3の1社、フォードは「流れ作業方式」による世界初の量産乗用車「Tタイプ」を生み出した由緒正しい企業だ。そのフォードがなんとアメリカの乗用車(セダン)市場から撤退するという。その理由や背景には、何があるのだろうか。(ジャーナリスト 井元康一郎)
由緒ある米フォードが
アメリカの乗用車(セダン)市場から撤退
米フォードがアメリカの乗用車市場から撤退――。
ゴールデンウイーク前の今年4月下旬、驚きのニュースが飛び込んできた。彼らのいう乗用車とは、4枚ドアのセダンモデルのこと。SUVやスポーツモデルは残しつつ、これまでの事業の柱の一つであったセダン/ハッチバック/乗用ステーションワゴンから手を引くのだという。
この話は投資家向けの第1四半期決算説明会で明らかにされたもので、ほぼ“本決まり”といえるだろう。流れ作業方式による世界初の量産乗用車「Tタイプ」を発売したのは1908年で、今年はそれから111年目にあたる。
そんな由緒あるフォードの北米乗用車撤退は、アメリカの自動車史において一つのマイルストーンになるくらいのドキュメントであることは間違いないところだ。
このニュースに触れた人の多くが当惑を覚えたことだろう。実際、当のアメリカでも本当にフォードはセダンモデルを捨てるのかという疑念の声が巻き起こっている。
確かにこのところ、アメリカの乗用車市場でセダン需要が縮小し、SUVへのシフトが起こっているのは事実だ。もともとアメリカの顧客は大きいクルマを圧倒的に好むものだが、そんな顧客の嗜好だけでなく、燃料価格が比較的安値圏で推移していること、およびトランプ大統領がCO2排出規制の厳格化を見送っていることなど、環境要因が大きく後押ししてのこと。