米国が「米韓合同演習を中止する」と発表しただけで、パニックを起こしたように危機を訴える論評が続出した。

 「部隊の錬度を維持するうえでさまざまな演習は不可欠だ。米側が一方的に譲歩すれば抑止力を低下させかねない」(6月15日、読売社説)とか、「在韓米軍は北朝鮮と向き合う最前線であり、対中国でも重要な役割を担う。東アジアの安全保障に影響を与える方針転換を一方的に打ち出すのは同盟国軽視と言わざるをえない」(6月17日、朝日社説)といった論評だ。

 「北朝鮮が韓国を制圧し、日本が第一線になる」とテレビで語る“識者”も現れた。

 だがこれらは強大な韓国軍の存在を忘れたような論だ。

 北朝鮮がもっとも警戒する例年春の実動演習「フォール・イーグル」の参加兵力は、昨年も今年も韓国軍が約30万人だったのに対し、米軍は艦艇乗員を含めわずか1万人余で、韓国軍の大演習に米軍も儀礼的に参加している形だ。

 米韓合同演習の中止も今回が初めてではなく、核問題を巡る米側の取引材料によく使われてきた。

 米、韓軍は1976年から合同実動演習「チーム・スピリット」を行っていたが、92年に一度中止、93年に再開、94年以降は行っていない。代わりに米軍基地の防衛演習「フォール・イーグル」を2002年頃から本格的な演習に拡大した。

 現在、在韓米陸軍は、人員1万9000人余、戦車約90両、攻撃ヘリ約60機、米空軍は約8000人、F16戦闘機約40機、A10対地攻撃機24機の小振りな部隊だ。

 これに対して韓国陸軍は、人員49万人(米陸軍は全体で47万人)、戦車約2600両(うち約1500両は比較的近代的な国産、80両はロシア製の近代的なT80U )、攻撃ヘリ96機を持つ。

 空軍は対地攻撃能力が高いF15Kを60機、F16を160機余、小型だが十分使えるF5E/F戦闘機を170機余など、計500機余を持つ。

 冷戦終了直後の1990年、当時のソ連は北朝鮮の懇願を振り切って韓国を承認し、国交を樹立、92年には中国もそれに続き、韓国との経済関係は急拡大し、親密性が進んだ。

 北朝鮮は孤立、経済も弱体化し、中、露からの武器の輸入もほとんど途絶えたから、装備のほとんどは1960年代以前のソ連製やそのコピーだ。部品の入手もできず、飛行可能な戦闘機、攻撃機は数機と言われる。

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北が韓国全域を制圧する可能性低い

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