「会社のために自らを犠牲に」が
通用しにくくなる効果が

 また後藤氏によれば、日本型司法取引制度には企業法務の2つの観点から注目されているという。

「まず1つ目は、企業犯罪が明るみに出やすくなるということです。前述したように、たとえば社員が司法取引に応じて供述することで、事実が明らかになる可能性が高まり、検察は立証しやすくなります。そうすると、企業犯罪の摘発が盛んになり、会社側は『何が何でも会社を守ろう』というような、社員の忠誠心を期待できなくなることが予想されます。

 2つ目は、会社自体も取引の主体になり得るので、たとえば、『前社長に対する立証に協力するので、会社を起訴しないでください』という交渉も可能性としてはあり得ますし、企業防衛に利用できると考える人もいるわけです」

 つまり企業に勤めている人であれば、社内で何らかの不正、犯罪が発覚しても、会社のために自らを犠牲にするのではなく、正直に証言をして、自分は不起訴になる方が得ですよ――そんな提案をするのが、日本型司法取引制度なのだ。

 ただ、こうしたメリットも専門家によって意見は異なる。また、これまで建前上は司法取引がないことになっているが、以前から被疑者が自白することで減刑したケースは珍しくないのだという。今回の司法取引制度とは別次元の話だと前置きしつつも、後藤氏はこう話す。

「象徴的なのは、地下鉄サリン事件の実行犯である林郁夫受刑者です。死刑になってもおかしくないにもかかわらず、法廷で隠さずに証言したことで無期懲役の判決が下されました。アメリカの法律家が見れば、これは取引だと思うでしょう。つまり、これまでも暗黙の了解で、あるいは量刑事情としての考慮という形で、取引が行われてはいましたが、これからは堂々と正式な制度として、運用可能になりました」