SNS上で、経営やマーケティングに関する独自のコメントでフォロワーを集め、インフルエンサーの1人となった、“えとみほ”さんという女性がいる。

近年の経歴を簡単に紹介すると、40代でウェブメディアの編集長を経験したのち、アプリ・Webサービスの「Snapmart」を開発して経営者に。その後代表を退いてすぐに、全くの異分野であるJリーグ栃木SCのマーケティング戦略部長に就任して周囲を驚かせた。

なぜ彼女は、このように自由な働き方ができるのか?
どのような基準で人生の進路を決めているのか?
以前よりSNS上で“えとみほ”さんと交流し、自身もフリーランスとしてユニークな活躍をする“きたみりゅうじ”氏に、その秘密を探ってもらう連載の最終回。(第1回はこちらへ

きたみりゅうじもとはコンピュータプログラマ。本職のかたわらホームページで4コマまんがの連載などを行う。この連載がきっかけでイラストレーターではなくライターとしても仕事を請負うことになる。『キタミ式イラストIT塾「ITパスポート」』『キタミ式イラストIT塾「基本情報技術者」』(技術評論社)、『フリーランスを代表して申告と節税について教わってきました。』(日本実業出版社)など著書多数。 twitter:@kitajirushi

Snapmart事業からさらに新天地へ

 ――個人がスマホなどで撮ったスナップ写真を、誰でも気軽に売買できるようにする――

 着手から1年の開発期間を経てサービスインしたSnapmart事業は、正式発表直後からアクセスが殺到して何度もサーバが落ちるほどの反響の大きさを見せる。開設からわずか数ヶ月の間にサービス上で販売される写真の数は20万枚を超え、個人間だけではなく、購入を希望する登録企業もサービスインから1年を待たずに1000社を超えた。一大マーケットができあがった。

 えとみほさんにとっての二度目の起業は、社員に対する個別プロダクトの権限委譲もすんなりと進み、着想から3年が経つ頃、社内のルーチン業務から自分自身をリストラすることに成功する。
 順調に伸びるサービス。雑務からの解放。完全に成功を果たした悠々自適な経営者生活…を送るのかと思ったら、そうはならないのがえとみほさんの面白いところ。

「Snapmartは華々しい成功に見えるんですけど、退任されたと聞いて驚きました。そこからJ2リーグのサッカークラブに入社されたと聞いてまたびっくりで」

 なんと経営者として華々しく成功をおさめたと思ったら、またあっさりと社員の身に移っちゃったのである。それも、サッカークラブというまったく畑違いの業種に、自分で求人を見て応募して飛び込んだというのだから驚くしかない。

「スタートアップの世界から、サッカークラブのマーケティング部長。一見刺激度が下がるようにも見えたんですけど、そういう感覚はないですか?」

「Jリーグのクラブチームというとまったくの別世界なので、今までの常識がまったく通用しません。逆に刺激しかないです(笑)」

 言われて思いだしたのが、友人のバイクレース出走を応援しにアメリカへ行った時のこと。
 そこではバイクレース期間中は街をあげてのお祭りモードに入る。予選が終わると街のメインストリートを丸ごと封鎖して、決勝に挑むライダーたちとファンが交流できるファンフェスタが夜遅くまで開かれる。
 おそらくこの街の子どもたちにとって危険なコースに挑まんとするライダーたちはヒーローであり、ここで交流して憧れのライダーに触れた子どもたちは、また大きくなって自分たちの子どもをこの場所に連れてくるのだろう。
 そうして街の文化ができあがる。
 地元に根ざしたクラブチームもそれと同じに思えた。

「そっか、言ってみれば街の文化を作り上げる仕事ですものね。それは確かに刺激がすごそうです」

「そうなんですよ」

えとみほ(江藤美帆)米国留学中、マイクロソフト社でソフトウェアの日本語ローカライズに携わり、その後1年間本社に勤務。帰国後フリーのテクニカルライターとして活動後、2004年に英国企業のコンテンツライセンス管理会社を設立。日本における「禁煙セラピー」の普及活動に従事し、2010年に事業譲渡。以後、VR系ITベンチャー、外資系IT企業などを経て株式会社オプトに入社。ソーシャルメディアの可能性を探求するメディア「kakeru」(初代編集長)などを立ち上げる。2015年10月より関連会社の株式会社オプトインキュベートに出向し、「スマホの写真が売れちゃうアプリ Snapmart(スナップマート)」を企画開発。2016年8月、ピクスタ株式会社への事業譲渡に伴い新会社スナップマート株式会社へ移籍。2018年3月、代表を退任し非常勤顧問に就任。2018年5月より、Jリーグ栃木SCのマーケティング戦略部長。 twitter:@etomiho

40歳からはセカンドキャリア

「以前知人に『45歳を過ぎてからの転職はアスリートのセカンドキャリアと同じと考えた方がいいよ』と言われたことがあって、それが印象に残ってるんですね」

 曰く、今は寿命が延びていておそらくは100歳まで生きるだろうと。すると80歳まで働くと考えたら何かしないといけない。40歳以降を飽きたままで過ごすには、あまりにその先の人生が長すぎる。

「80歳まで…ですか。それ、リアルにそう思いますか?」

「思いますよー、確実に健康寿命延びてますし」

「一方で、40歳を過ぎるとフリーランスは仕事が減ると言われてますよね、その実感ってどうでしょう?そう思います?」

「実際求人はすごく減りますよね。自分の転職活動を振り返ってみても。それにまわりのライターを見ていても、やはり依頼は減る方向にあるみたいです」

「でもそういう人たちって、多くは受け身だったりしませんか? いかに稼ぐかではなくて、『仕事もらえない』ってスタンスでばかり話す人。だったら、それは自然なことだと個人的には思うんですよ」

 僕にとっての身近な例で申し訳ないのだけど、たとえば本の著者なんかだと僕程度の書き手であっても5段階くらいに扱いが変化してきていたりする。
 まずは通るかどうかわからない企画書を必死で書いて編集さんにOKをもらって本を出すのがスタート地点。そこで認められてくると、企画書を持ってきてくれたらあなたの本なら出しますよという風に変わっていく。さらに実績が積み上がると企画書は不要になり、口頭で伝えればそこから先は編集さんがいいように企画書を作って社内の稟議を通してくれるようになる。その次は、逆に先方が企画書を作って「書いてもらえないか」と口説きにくる。さらにその次となると、「どんな本ならウチで書いてくれますか?」と伺いにくるようになる。
 つまり仕事の流れっていうのは一様ではなく変わっていくもので、40歳になる頃には「一緒に仕事をさせて下さい」と思ってもらえる立場になってないと厳しいってことなんじゃないだろうか。

「それなのに、40歳になると仕事が減るというと『だから貯金しておかないと』とか書いてるものばかり。見直すべきはお金の貯め方じゃなくて、蓄積すべき仕事の質だと思うんですよ」

「それはそうかもしれないですね。私もITライター時代、焦りを覚え始めたのは『この仕事は35歳までだよ、それを過ぎたら食えないよ』と言われたのがきっかけでした。じゃあ40歳、50歳になった時食えるようにしておかなきゃいけない。何をやろう、どうやったらいいだろうと考えましたね。就職氷河期世代なので、とにかく『食えなくなる』というのが怖くてしょうがなかったんです」

 えとみほさんが培ってきた様々なキャリア。それは一見個々につながりはないようでいて、折々に前職の経験が生かされて、だからこそより高い成功をおさめてきているように見える。
 その有言実行ぶりからすると、当然「80歳まで働く」という彼女の言葉も、今がセカンドキャリアの始まりになるというのも、おそらくは真実なんだろう。

「80歳かー、働きたくないなあ」

「体は健康でも脳みそは鈍っていきますから、怖いですよね~」

自由でいるための一番の秘訣

 80歳まで働かなきゃいけない。
 この「働かなきゃいけない」に込められた意味は人によって違う。多分ほとんどの人にとっては「(お金のために)働かなきゃいけない」となるんじゃないだろうか。でも首尾良く成功をおさめてお金から解放された時、「じゃあ何のために働くか」は人によってやっぱり違う。
 そういうモデルケースを見た時に、僕がよく思うのは「最後は名誉欲」だった。

 人に認められたい。
 手柄を勝ち誇りたい。
 多くの人からの称賛を得たい。

 たくさんの人がこの罠にはまり込み、迷走し、そして没落していく。

 えとみほさんの話を聞いていて意外だったのは、その空気がないこと。特にSnapmartほどの事業となれば起業家としての自分を誇っておかしくないはずなのにそれがない。これまで手がけてきたどの事業を語る時にも、そこに拘泥せず次へ移ることに何の違和感もなく見える。

「面白いものを見つけて、それを広めるのが好きとおっしゃってましたけど、そういう人ってSNS上にはたくさんいるじゃないですか。でも、そういう人って、その結果自分がちやほやされたいみたいなのがあると思うんですよ。『それ広めたの私だよ!』ってどうしても言いたくなるというか、その気持ちを捨てられない。えとみほさんはそういうの全然ないですか?」

「全然ないです(笑)」

「全然?」

「うん、飽きるから執着しない。極端な言い方をすれば、飽きたからどうでもいいものなんですよ。そこに愛着はありますけど、恋愛でいうと元カレみたいなもので、飽きて離れたらもう別に…ねえ(笑) その人が誰かと結婚したってどうでもいい」

 おそらく彼女にとっては、「新鮮で楽しいことに取り組む自分」こそが一番自然な姿なんだろう。自然だからこそ新しい分野へ飛び込むことを躊躇しないで済むし、こうも楽しそうで自由に見えるのかと思ったら、そこに「40歳の空虚さや惰性」を感じない理由がよくわかった気がする。

 自分の過去への執着を捨てる。そして、自分が一番楽しんでいられる世界を見つけて、そこにこだわる。それこそが、フリーランスとして自由でいるための一番の秘訣なのかもしれない。それは多分、一番難しいことなんだろうけど。
 だからこそ、それをさらりとやってのけるえとみほさんには、尊敬の念を禁じ得ない。

(おわり)