「海が見えないことは
故郷がなくなること」

 宮城県気仙沼市の内湾地区では、県が高さ4.1メートルで設計していた防潮堤を、設計より「22センチ」高く建設していたことが、昨年4月に判明し、地元と県との対立が続いている。

 市側は「造り直し」を求め、工事を一時、中断させた。

 村井嘉浩知事はミスの責任が県にあることは認めたものの、造り直しには応じなかった。当初の目標通り、工事を18年度内に終わらせることを優先し、昨年10月に工事を再開させた。

 このごたごたにも復興予算の期限が迫る問題が影を落とす。

 問題が発覚した時点で、工事は半分近くが終わっており、造り直しとなると、費用が膨らむうえに、再設計によって復興期限を過ぎる恐れがあった。 

「工程上のタイムリミットが近づいている」。記者会見などで村井知事が繰り返すのは、工期優先だ。

 それにしても、わずか「22センチ」の違いで、県と市対立するとはどういうことなのか。

 地元新聞社の幹部が、住民の気持ちをこう代弁する。

「気仙沼市民は海と共に生きてきた。防潮堤を造るにしても、海が見えて、海とのつながりが実感できるように1センチでも低くしてほしいという思いなのです」

「漁業をやっていない普通の人でも、海岸とともに生きた思い出がみんなあって、一度は都会に出ても、Uターンしてくる人が少なくない。だが、震災後、子どもたちの中には高台に移転して、海岸とは全く無縁になった。こうした子どもが成人して県外に出たら、気仙沼に戻ろうという気持ちにはならないのではないか」

「いわば海が見えないことは、故郷が見えないのと同じ。だから、22センチというのは大問題なのです」