
日本のプロ野球やアメリカのメジャーリーグでは祝勝のため「ビールかけ」や「シャンパンファイト」を行う。これに対して「無駄遣いだ」と思う人もいるが、実はパフォーマンスを上げるためにもやった方がいいのだ。(イトモス研究所所長 小倉健一)
ビールかけ、今年は見られない?
2025年10月、プロ野球クライマックスシリーズを目前にして、ある残念なニュースが駆け巡った。
祝勝会でおなじみの「ビールかけ」が、アサヒグループホールディングスのシステム障害の影響によるビールの供給不足で実施困難になるかもしれない、というのだ。
ファンからは落胆の声が聞こえてくる。今年は、選手たちが子どものようにはしゃぎ、ビールを頭から浴びせ合う光景が見られないかもしれない。
海の向こう、メジャーリーグでも同様の光景が繰り広げられる。
ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手は、昨年、ワールドシリーズを制覇した際、シャンパンの豪快なシャワーを浴びながら、チームの首脳に「あと9回!」(大谷は昨年の段階で10年契約だったので、あと9回優勝できる)と叫んだという。
その姿は、国境や文化を越えて、勝利の歓喜がいかに原始的で、爆発的なエネルギーを伴うかを我々に教えてくれる。
一見すると、ビールかけやシャンパンファイトは、ただのバカ騒ぎ、あるいは高価な飲み物の壮大な無駄遣いにしか見えないかもしれない。「もっと他に喜び方はあるだろう」「不謹慎ではないか」という声も時折聞こえてくる。
しかし、もしこの行為が、単なる感情の発露ではなく、チームという集団を劇的に強くするための、極めて合理的で計算された「儀式」だとしたらどうだろうか。
本稿では、この泡まみれの祝祭の歴史をひも解き、最新の科学的研究を基に、その驚くべき力と意味を解き明かしていきたい。