ベストセラー『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』が話題で、講演も大人気の山口周氏。時代を見通す慧眼に注目が集まるなか、山口氏が「アート」「美意識」に続く、新時代を生き抜くキーコンセプトをまとめたのが、『ニュータイプの時代――新時代を生き抜く24の思考・行動様式』だ。
モノが過剰になり、正解がコモディティ化する世界では、これまで評価された「論理とサイエンス」は急速に価値を失い、「美意識とアート」が求められる。その流れはさらに加速し、今後は「問題発見」と「意味創出」の価値が増す。
社会構造の変化やテクノロジーの進化にともない、「優秀」とされる人材要件は大きく変わる。では、これから活躍できる新しい人材=「ニュータイプ」とは? 本稿では同書から一部を抜粋して、特別公開する。

「20世紀的優秀さ」の終焉

 本書のメッセージをまとめれば、次のようになります。

 20世紀の後半から21世紀の初頭にかけて高く評価されてきた、従順で、論理的で、勤勉で、責任感の強い、いわゆる「優秀な人材」は、今後「オールドタイプ」として急速に価値を失っていくことになるでしょう。

 一方、このようなオールドタイプに対置される、自由で、直感的で、わがままで、好奇心の強い人材=「ニュータイプ」が、今後は大きな価値を生み出し、評価され、本質的な意味での「豊かな人生」を送ることになるでしょう。

 この本を手に取ったような方であれば、すでに薄々気づいていることだと思いますが、20世紀の後半から21世紀の前半まで、50年ほどのあいだ「望ましい」とされてきた思考・行動様式の多くは、今日、急速に時代遅れのものになりつつあります。

 本書では、これらの旧態依然とした思考・行動様式を「オールドタイプ」として、一方、それに対置される新しい思考・行動様式を「ニュータイプ」として整理し、読者に提示します。

 では、ニュータイプとはどのような人物像なのでしょうか。それこそが本書の主要テーマであり、詳細については本論をお読みいただきたいのですが、ここで「頭出し」をしておけば、以下の図1のような思考・行動様式を持った人物像ということになります。

 ご覧いただければわかる通り、このようなオールドタイプの思考・行動様式は、これまで長いこと一般的に「資本主義社会で成功する優秀な人物」と考えられてきた人材の要件です。しかし、今まさに激しい変化の只中にある社会の構造やテクノロジーを踏まえれば、これらの思考・行動様式はアップデートされなければなりません。

 詳しい説明は『ニュータイプの時代』の個別項目に譲りますが、ここでかつて礼賛された人材要件=オールドタイプが、なぜ新しい人材要件=ニュータイプにアップデートされなければならないか、大きく2つのポイントから、その理由を指摘しておきたいと思います。

「正解を出す力」に、もはや価値はない

 1つ目のポイントは、オールドタイプの思考・行動様式が、「社会への価値の創出」という観点から、すでに有効ではなくなりつつあるということです。

 筆者は拙著『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』で、これまでオールドタイプの多くが依拠していた「論理とサイエンス」が、「モノが過剰になり、正解がコモディティ化していく」世界において有効性を失いつつあることを指摘した上で、今後は「美意識とアート」を武器にする新しい人材=ニュータイプが求められている、という主張をしましたが、これはまさに「価値創出」の源泉が「問題を解決し、モノを作り出す能力」から「問題を発見し、意味を創出する能力」へとシフトしていることを受けてのものでした。

 いわゆる「優秀さ」は文脈依存的な概念であることに注意が必要です。どのような時代にあっても、その時代において「望ましい」とされる人材の要件は、その時代に特有の社会システムやテクノロジーの要請によって規定されることになります。これはつまり、世の中の要請に対して相対的に希少な能力や資質は「優秀さ」として高く評価され、逆に過剰な資質や能力は「凡庸さ」として叩き売られる、ということです。

 したがって「モノ」が過剰になる一方で、「問題」が希少になっている現在の社会において求められる人材要件が、その真逆である「モノ」が希少で「問題」が過剰であった、かつての社会において求められる人材要件と大きく異なるのは当たり前のことなのです。

 しかし、人間のマインドはとても保守的なので、多くの人は相も変わらず、偏差値に代表される「正解を出す能力」を、その人の「優秀さ」を示すモノサシだと信じていまだに崇め続けています。この認識のネジレが、社会のさまざまな局面で悲劇と混乱を巻き起こしています。

 19世紀の西部開拓時代を舞台にした伝説上の人物、ジョン・ヘンリーの物語はご存知でしょうか。誰よりも力強くハンマーを振るうことができた鉄道線路作業員のジョン・ヘンリーは、当時の最先端技術であった蒸気ハンマーに対して「鍛えあげられた人間がそんなものに敗れるはずがない」と戦いを挑み辛くも勝利しますが、心臓麻痺を起こして死んでしまいます。

 この物語は、産業革命の時期において、それ以前に「優秀な人材」を規定するモノサシであった「筋力」や「精神力」が、もはやそうではなくなりつつあった過程で起きた混乱と悲劇を象徴的に示しています。