ラジカセやボンカレー…昭和を象徴するものを「大人買い」する中国人たちがいる。まだ中国が貧しかった頃、昭和の日本と出合った彼らは、豊かになった今、「爆買い」ならぬ「大人買い」で、昭和を懐かしんでいるのだ。

日本製ラジカセを
17万円で落札した中国人男性

「男はつらいよ」の舞台、柴又「男はつらいよ」で日本語を学んだ中国人女性は、寅さんの映画舞台の地を訪れるのを訪日時の楽しみにしている Photo by San Miguel Chikuzen(以下同)

 7月、ヤフオクに出品中だった昭和52年製シャープの良品ラジカセを、知人に頼まれて落札した。落札金額は17万1000円。著者にとって史上最高額での落札だった。小市民の著者は、入札時、何度も金額を確認し、クリックする指をぷるぷると震わせながら「入札する」ボタンを押した。

 依頼者は、中国瀋陽で旅行会社を経営する姜さんという50代の男性。姜さんは中国の少数民族・朝鮮族の出身。日本語には中学時代から接しており、大学は日本語学部に進学したが、入学時にある程度は話せるレベルだったそうだ。

 時代は1980年代半ば、日本はプラザ合意を経て、バブル経済へ向けて突き進んでいた時代だ。当時、中国は1976年に終結した文化大革命からまだ10年足らずで、今からはまったく想像もできないくらい、国全体が貧しかった。

ラジカセ17万円!「昭和」を大人買いする中国人の心情かつてはラジカセも自転車も高級品で手が出なかったが、豊かになった今、姜さんは「大人買い」で往時を懐かしむ

 姜さんは、日本から瀋陽へ赴任していた日本人の教師から、日本語だけではなく、日本人の考え方なども学びつつ、当時、留学していた日本人留学生たちを教師から紹介してもらい交流していた。

 この当時、学んでいた先生や交流があった日本人留学生とは今でも連絡を取り合っており、10年ほど前までは、彼らが訪中して会っていたが、今では逆になり姜さんが訪日して会っているという。

「日本人は時間や約束を守る、中でもお金の約束は特にしっかりと守ることを今でもよく覚えています。それが私の中で、今でも続く日本人のイメージです」(姜さん)

 姜さんによると、80年代半ばの中国において自転車は、円やドルのような外貨でしか買うことができない特別な高級品だった。ある日曜日、姜さんは、日本人教師に買い物に同行してほしいと頼まれた。教師は自転車を購入した。その半年後、日本人教師が帰国するときに、その自転車を世話になったお礼だとプレゼントされた。姜さんは大喜びだったが、それからわずか3日後に2つの鍵を壊されて盗まれてしまったそうだ。それくらい当時、中国において自転車は希少価値があった。

 トヨタやホンダの車を複数台所有する今の姜さんからは想像できないような、まさに“昔話”である。

 そんな姜さんが、授業で聞いていたのがシャープやサンヨー、ソニーのラジカセだった。中でもシャープがお気に入りらしい。