目先のことから解放される年末年始の休暇中は、普段はできないことに意識を向けるチャンス。例えばじっくりと読書を楽しんでみてはいかがだろうか。
2019年に生まれたベストセラーの中から、仕事やこれからの生き方、ものの考え方に刺激を与えてくれる5点の書籍を、ビジネスパーソン向けに厳選した書籍のダイジェストを提供するビジネス書のプロ『情報工場SERENDIP編集部』が紹介する。読みたかったけれどスルーしていたもの、普段は関心を向けないもの、なんとなく気になったもの……を臆せず手に取ってみてほしい。そこから思いがけないヒントが見つかるかもしれない。(文/情報工場SERENDIP編集部)
『両利きの経営』で
世界最先端のイノベーション理論に触れる
2019年に注目を集めたベストセラーといえば本書『両利きの経営』(東洋経済新報社)だろう。欧米では主流となっている最先端のイノベーション理論「両利き(ambidexterity)の経営」を、初めて体系的に解説したもの。第一線の米国の経営学者2人が筆を執り、早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄氏と、経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEOの冨山和彦氏が日本語版解説を担当している。
「両利きの経営」とは「知の深化」と「知の探索」を同時にバランス良く行うこと。「深化」とは一つの専門分野を深く掘り下げることで、「探索」は新規の分野があるかどうか広く探し、試してみることを指す。企業の経営でいうと、既存事業を改善・改良しながら(深化)、まったく新しい領域で新規事業に取り組む(探索)ことだ。こうした相反するスキルをいかにバランス良く発揮するかが、これからの経営戦略の要になると説く。
たとえば富士フイルムは、フィルムの売り上げが減少し始めた時期に、自社の独自技術が使えそうな市場の「探索」を行った。そしてリスクを取り、液晶ディスプレイや医薬品、化粧品という新しい領域への投資を続けたのだ。その結果、既存のフィルム事業も続けながら多様な産業への進出を成功させている。
イノベーション創出は、来年も引き続き多くの企業で課題となるだろう。世界で最重要と評される「両利き」経営論の決定版、読んでおいて損はないはずだ。