武漢Photo:Reuters

 【北京】中国の武漢で発生した新型コロナウイルスによる流行性の肺炎で、感染源と思われる場所の特定に時間はかからなかった。それは、ダウンタウンの生鮮市場の一群の店舗だった。そこでは、タケネズミ、ダチョウ、ワニの子、ハリネズミなど何十種類もの野生動物が生きたまま、あるいは殺処分した状態で売られていた。

 華南海鮮卸売市場と呼ばれるその市場には、フットボール場9個分の敷地に粗末なつくりの1000軒ほどの店が集まっている。この種の市場としては、中国中部で最大規模のもので、武漢の市民やレストランに主として海産物を提供している。大半の中国人が買い物に利用するような典型的な生鮮市場だ。

 他の多くのこうした市場と同様に、この市場でも、珍味、あるいは漢方薬の材料として野生動物が売られていた。こうした野生動物の売買は、約20年前に致死率の高いコロナウイルスが原因の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行を引き起こしており、世界規模の新たな伝染病を引き起こす恐れがあると警告されていた。にもかかわらず、中国政府は、この古くからの取引を引き続き容認してきた。

 昨年末の検査では華南市場の安全性が確認されたが、武漢市当局者らは今、市場を閉鎖している。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記者が先週市場を訪れた際には、同市場は警察の規制テープで完全封鎖されていた。各店舗の店主らは、補償金や春節(旧正月)の祝いの品を受け取るため、雨の中で並んでいた。

 中国当局は、流行拡大を食い止めるための緊急措置として、武漢市と、同じ湖北省の周辺都市を事実上封鎖した。武漢は湖北省の省都だ。26日には、全国を対象とした野生動物取引の一時停止措置を導入、野生動物飼育センターの一斉検疫を実施した。

 とはいえ、中国政府は現在、野生動物取引をこれまでになぜ一掃してこなかったという、居心地の悪い問いに直面している。中国政府はまた、野生動物を食用にすることの恒久的禁止という、市民からの異例の要求にも直面している。政府はこれまで、野生動物料理を好む比較的裕福な層の不満を恐れて、こうした禁止措置に消極的だった。

 中国の習近平国家主席は、公衆衛生などの世界的課題に関する同国の指導力を強調してきた。衛生問題専門家や政治アナリストらによれば、今回の危機的状況への習氏の対応は、こうした指導力の重要な試金石になるとみられている。

 北京大学の元学長を含む19人の中国の著名科学者は23日、「今回の出来事を、(野生動物取引の)混乱状態の収拾の機会とすべきだ」と記した嘆願書を公表した。