2012年度から19年度における
公債等残高(対GDP)の増加幅(年平均)
2019年10月の消費増税後も依然として財政は厳しい。財政の将来予測で一般的に利用されるのは内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」(中長期試算)だ。内閣府は、20年1月の経済財政諮問会議で最新版の中長期試算を公表した。
この試算によると、国と地方を合わせた基礎的財政収支の対GDP比は19年度で2.7%の赤字だが、29年度において、成長実現ケースでは0.5%に黒字化し、ベースラインケースでも1.3%まで赤字が縮小する予測となっている。また、国・地方の公債等残高(対GDP)は19年度で192.4%だが、追加の消費増税など財政再建の努力をしなくても、29年度に成長実現ケースでは157.8%、ベースラインケースでも190%まで縮小する予測となっている。
この予測が妥当ならば、もはや財政再建に政治的な資源の多くを割く必要はないが、筆者はこの予測は甘いと思っている。日銀が大規模な金融緩和で長期金利を歴史的水準のゼロ近傍にまで抑制しているが、公債等残高は増加の一途をたどっているからだ。
例えば、12年度に179.3%だった公債等残高は19年度で192.4%に膨張しており、12年度から19年度の年平均の増加スピードは2.5%ポイントだ。また、中長期試算の17年1月版、同7月版、18年1月版、同7月版が予測した19年度の公債等残高は、ベースラインケースで、それぞれ189.1%、187.1%、186.1%、186.9%だったが、19年度は192.4%となった。
最近、内閣府の中長期試算の予測をベースに、財政再建をしなくても長期金利を低い水準に抑制することに成功すれば、公債等残高を縮小できるという意見も出ているが、明らかな間違いである。
増税しても歳出が膨張する限り、財政再建は永遠に不可能だ。公債等残高を最低でも現在の水準以下に抑制するまで、財政赤字削減が必要であり、その判断には、内閣府の予測の精度も鍵を握る。公債等残高の将来予測に関する誤解を招かぬよう、予測が本当に妥当か、精査する姿勢も重要であろう。
(法政大学経済学部教授 小黒一正)