プーチン大統領Photo:Reuters

 ロシアのようなならず者国家が、海外で混乱を引き起こす際には、代理役に実行を任せ責任を否定することが多い。しかし、昨年夏のドイツでの暗殺事件をロシアの連邦保安局(FSB)が計画、実行した証拠が今週明らかになったように、時には化けの皮がはがれることもある。

 ドイツ当局は昨年8月、亡命を申請していたチェチェン独立を求める活動家をベルリンで殺害したとして、ロシア国籍の男を逮捕した。独立系調査報道サイト「ベリングキャット」は17日、携帯電話のメタデータ(データの属性や関連情報のデータ)に基づいて「この2019年のロシア国外での暗殺は、ロシアの主要治安当局が計画し、準備し、実行したものだった」とする報告を公表した。さらに同報告によれば「FSBとロシア警察は、逮捕された暗殺者が本当は誰であるのか知っていながら、ドイツ当局に虚偽の情報を伝えることを選択した」という。メタデータはまた、FSBの施設で長期間過ごしていたこの暗殺者が、かつてスペツナズと呼ばれるロシア特殊工作部隊に所属していたとしているが、その指摘には説得力がある。

 ドイツの検察官は12月にこの殺害事件の責任がロシア政府にあると非難し、ドイツ政府は制裁措置として2人のロシア外交官を国外追放した。ロシアは事件への関与を否定しており、2人のドイツ外交官を国外追放する報復措置を取った。依然として、ドイツとロシアは天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」で協力している。このパイプラインは、欧州のロシア産エネルギーへの依存を一層高めるものだ。対照的に、2018年に英国でロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏の毒殺未遂事件が起きた後は、欧米諸国が100人を超えるロシア外交官を国外追放した。この事件をめぐっては、無関係の英国人1人が死亡し、数人が入院した。

 欧州の一部の人々、とりわけフランスのエマニュエル・マクロン大統領は、2014年のウクライナ侵攻後何年にもわたり孤立状態にあったロシア政府を、その後信頼できる外交パートナーになったかのように扱っている。米国のドナルド・トランプ大統領とマイク・ポンペオ国務長官も、ロシア政府の機嫌をうかがっている。トランプ氏は、独裁主義者のウラジーミル・プーチン大統領を、民主主義国から成る主要7カ国首脳会議(G7サミット)に呼び戻したいとさえ考えている。

 タイミングは最悪だ。独立系調査機関のレバダ・センターによると、1月時点のプーチン氏の支持率が、比較的低い68%を記録したことが、多くの注目を集めているが、プーチン氏を信頼していると回答したロシア人の比率はわずか35%になっており、17年11月の59%から低下している。

 ロシア人がプーチン氏による統治と、現在2024年までになっている任期を過ぎても権力を維持しようとする同氏のやり方に幻滅するなか、プーチン氏は海外で一層帝国主義的な姿勢を取り、国内の支持を高めようとする可能性がある。大幅な譲歩や行動の変化がないままにロシア政府を厚遇すれば、同国の一層無謀な行動を促すことになろう。

(The Wall Street Journal/The Editorial Board)