正義の反対は悪ではなく、
また別の誰かの正義である
「正義の反対は悪ではなく、また別の誰かの正義である」という言葉があるが、それをまざまざと感じさせるインタビューだ。
オリバー ストーン著、土方奈美(訳)、文藝春秋、394ページ、1700円(税別)
日頃のニュース報道をどれだけ注意深く見ていたとしても、プーチンの実像など、なかなか見えてこない。元KGBの工作員であり、独裁者であり、言論の弾圧や人権の侵害でも、よく批判される。だが時に起こす大胆な行動に、世界は度々驚かされてきた。このミステリアスなプーチンの素顔に迫ろうと試みた映画監督ーーそれがオリバー・ストーンである。
作家と編集者、あるいはピッチャーとキャッチャー、力量の釣り合った者同士でないと、1+1を2以上にすることは難しいが、インタビュアーとインタビュイーの関係もまた同様である。オリバー・ストーンは、いわゆる政治と異なる世界の住人であるがゆえの大胆さと、数々の俳優とやりあってきたであろう執拗さで、被写体を丸裸にしようと試みた。
一方受けて立つプーチンも、したたかだ。たとえばアメリカについては、大局を批判しながらも、個人は批判せずといったように、時間・空間のスケールを自由自在に操る。そして自国のセンシティブな話題について聞かれたときは、用意された建前に議論の出発点を線引きし、詰め寄るオリバー・ストーンを、何度もかわし切っていく。
視点をどこにおくか、視野をどれくらいのサイズにするかーーそれはまさに、政治家の頭脳と映画監督のカメラが編集点を巡って、バトルを繰り広げているようだ。だが互いにリスペクトがあるから、これは殴り合いではなくプロレスだ。本書『オリバー・ストーン オン プーチン』は、そんな2人の言葉の格闘技が、2015年7月から2017年2月までの間、全12回に渡ってテキストとして纏められた一冊である。