だから、やはりステレオタイプ脅威は「リアル」なのだと著者は言う。そして著者は、そのような脅威はじつは広く認められるのだとも主張する。記憶力がわるいと決めつけられる高齢者、黒人選手と身体能力で比較されるほかの選手、そして白人やアジア系に比して勉強ができないと思われがちな黒人学生などは、その本来の実力が発揮できずにいることが多いというのだ。

ステレオタイプ脅威を
緩和する方法

 最終的に著者は、ステレオタイプ脅威を緩和する方法についても言及している。すでに見たように、ステレオタイプ脅威を取り除く方法は意外と簡単で、しかも大きな効果をもたらす場合が少なくない。少数名のチームであっても女性を複数登用すること、学生たちに「知的能力は拡張可能だ」とさりげなく教えること、また、自分にとって重要な価値観をよく考えて書き出させることなど、そんな簡単なことで個人のパフォーマンスは大きく改善されうる。本書後半のこの部分の指摘は、とくに教育や社会政策に携わっている人であれば、ぜひとも目を通しておきたいところであろう。

 以上のように、本書は驚くべき知見の数々を示した本である。そして、それらの知見を説得的に提示しようとしているがゆえに、議論の運びはそれなりに慎重で、いわゆる「外堀を埋める」作業にもかなりの紙幅を費やしている。読む人によっては、そうした記述を「まどろっこしい」と感じることもあるかもしれない。

 とはいえ、著者は自身の苦い経験を議論の導入とするなど(著者はアフリカ系アメリカ人だ)、一般読者も退屈せずに読めるような工夫を凝らしてもいる。それゆえ、本書は全体として十分に楽しめる読み物に仕上がっている。「えっー!」と驚いたり、「なるほど」と首肯したりしながら、本書が示す知見を最後までじっくり楽しみたい。

(HONZ 澤畑 塁)