派手な話題にはならないが、着実に成長を遂げているネットサービスがある。商品のお試しサイトだ。従来型のWEBショップと違い、購入を検討するための「お試し需要」にターゲットを絞っている点が新しい。
2011年にオープンした「おかりなレンタル」では、最新の高級家電を試すことができる。扱う商品は、掃除ロボット、ホームベーカリー、高機能炊飯器、防水テレビ、ミラーレス一眼カメラなど人気の高級家電が中心だ。買い物は慎重に検討し、失敗をしたくない。そんな堅実な女性層に人気を呼んでいる。
同サイトの実績を受けて、お試しサイトは徐々に増加。美容家電や電子書籍リーダーなど、扱う商品ジャンルも広がっている。
「お試し」は、ハードルを低くすることで消費者の心理障壁を取り除く効果があり、どちらかというと古典的な販売手法だ。化粧品や置き薬の訪問販売などではよく使われてきた。ネット時代にも健在というわけだ。
なかでも、ネットのお試し市場で、これから成長が期待できるのが楽器業界ではないだろうか。7月にリリースされた「音スタ!」は、株式会社サイブリッジが運営する楽器のお試しサイトだ。
「音スタ!」では、試してみたい楽器を1ヵ月単位からレンタルできる。使用して気に入ったら、そのまま購入することも可能。購入時には支払い済みのレンタル費用が購入費用に充当できる。レンタルが長期間になっても損をしないシステムだ。
扱う楽器は、エレキギター、ベースから、トランペット、サックス、フルートなどの管楽器、ドラムと多岐に渡る。
注目すべきは料金面だ。例えば、フルートのスタンダードモデルは月1300円、トランペットは月980円から。メーカー系のレンタルサービスに比べると、半額以下という価格設定になっている。
「利用者数が増えることを前提に、将来的に提供したい価格で提供をしています。ですので、黒字化はまだ難しい状況です。楽器をやってみたいと思う潜在的なユーザーにアプローチし、まずは多くのファンをつくっていきたいと思っています」(サイブリッジ ITコミュニケーショングループ 伊藤水緒氏)
潜在的な音楽ファンを掘り起こすことを目的とした破格の設定。出足は順調で、サイレントバイオリンやアコースティックギターなど、都市型住居で楽しめる楽器の人気が高いという。
「社会人になって、なかなか楽器に触れる機会がないという方も多くいます。今後は、吹奏楽部で使うような楽器も多く取り揃えていきたいと考えています」(同氏)
国内の楽器市場は少子化の影響を受け、売り上げが漸減傾向にある。そんな中、元気なのが40代以降のアクティブシニア層だ。ヤマハが主催する「大人の音楽レッスン」は1986年のスタート以来、生徒数を伸ばしているが、その3割以上が40歳代だ。
学生時代に楽しんだ音楽にもう一度チャレンジしたい、手軽な趣味として楽器に挑戦したい。そんな潜在需要は多い。しかし楽器は実際に使ってみないとわからない商品だ。楽器店で少し試奏しただけでは、自分との相性が把握できない場合も多い。
低価格で、しかも家庭でじっくり楽器を試せるネットサービス。普及すれば、音楽業界の潜在顧客を掘り起こすきっかけになるかもしれない。
(吉田由紀子/5時から作家塾(R))