中国の「香港国家安全維持法」に基づく香港の民主派に対する弾圧が、世界中を恐怖に陥れているように見える。しかし、筆者は中国こそが追い詰められているとみる。2014年の「雨傘革命」から始まった失敗の連続によって、結果として到底「文明国」とはいえない野蛮で無様な手法を取らざるを得なくなったと考えるからだ。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
香港国家安全維持法を違反した疑いで
「民主の女神」周庭さんを逮捕
香港警察は8月10日、民主派の香港紙「蘋果日報(アップル・デイリー)」などを発行するメディアグループの創業者、黎智英氏や同紙幹部ら7人と、「雨傘革命」の広報担当だった周庭(アグネス・チョウ)さんを「香港国家安全維持法」違反の疑いで逮捕した。
黎氏やアグネスさんらは、11日深夜に保釈され、記者団の取材に応じた。アグネスさんは「明らかに政治的な弾圧。逮捕はとてもばからしく、なぜ逮捕されたのか分からない」「今回の逮捕は本当に怖かったし、今回の罪も今まで私が逮捕された4回の中で一番、重かった」と述べた。そして、「拘束されている時にずっと『欅坂46』の『不協和音』の最後の最後まで抵抗し続けるという歌詞が、頭の中に浮かんでいた」と、引き続き香港の民主化と自由のために戦うという決心を示した(毎日新聞『保釈の周庭氏、欅坂46「不協和音」脳裏に 「これからどんどんつらくなるかも」』(8月12日))。
中国共産党による「香港国安法」の施行に端を発した民主派の弾圧は、香港のみならず、世界中を恐れさせているように見える。だが本稿は、実は中国共産党・香港政府は失敗を重ねて追い込まれてしまい、結果として到底「文明国」とはいえない野蛮で無様な手法を取らざるを得なくなったのだと主張する。