結局、この大会で彼女は優勝した。が、それから14年、この大会を棄権し続けた。日本的プロ意識からすれば、「文句があるのなら、ちゃんと出場して試合に勝ってから言え」ということになるのだろうが、長く社会の中で差別に晒されてきた黒人女性アスリートにとって、「試合に出ない」というアクションもれっきとした「意志表明」なのだ。

 大坂さんは、幼少期からセリーナが憧れの人だと言っている。その彼女が人種差別的なブーイングを受けた2001年は、ちょうど大坂さんの一家がアメリカに移住した年である。もしかしたら、当時大坂さんもセリーナ同様、嫌な思いをしたかもしれない。

外国人を日本人のように
振る舞わせようとする放漫さ

 そう考えれば、黒人女性アスリートの大坂さんが「人種差別」という問題に直面して、憧れのセリーナと同じようなアクションに出ても何も不思議ではないし、メッセージ性のあるマスクをするのも当然なのだ。

 こういうやり方が素晴らしいなどと言っているわけではない。日本人にはまったくピンとこない手法かもしれないが、黒人をルーツに持ち、アメリカ社会で成長してきた大坂さんにとっては「自然」だと、申し上げたいのだ。

 そういう日本人と異なる価値観、異なる考え方を否定して、日本人のように振る舞えというのは傲慢ではないのか。少なくとも、理解をしようとするべきではないか。そういう多様性こそが、これからの日本で最も大切なのは言うまでもない。

 ダボス会議で有名なWEFの国際競争力ランキングで、日本は2018年に5位だったが、2019年には6位へと順位を落とした。では、何がそんなに国際競争力の足を引っ張っているのかというと、「労働力の多様性」が際立って低いからだ。2018年には140カ国中81位だったが、19年には141カ国中106位まで落ちた。

「日本のためには、外国人労働者の活用が不可欠だ!」「やっぱりこれからは、ダイバーシティだよね」などと言うおじさんも増えているのに、なぜこんな体たらくなのかというと、われわれは「郷に入っては郷に従え」と、日本にやってきた外国人たちに対して彼らの価値観を認めず、「日本人」になることを求めてきたことが大きい。