聖書を覚えぬトランプが
キリスト教原理主義者に支持される理由

 2016年の選挙戦でトランプを熱狂的に支持したのは3つのグループだ。まずトランプを神が選んだリーダーだと崇めるエバンジェリカル(キリスト教原理主義者)、次に重工業や製造業に従事していたが、国際化や技術革新から取り残されて行き場を失った教育レベルの低い白人労働者たち、そして世論調査では自分がトランプ支持だとは言わないが、内心は人種差別主義や拝金主義の「隠れ」トランプ支持者たちである。

 とりわけバイブルベルトと呼ばれるアメリカ南東部一帯に住むエバンジェリカルはトランプの岩盤支持者だ。その数およそ8000万人。つまりアメリカ全国民の4分の1を占めている。

 彼らは聖書を絶対視する狂信的キリスト教原理主義の人々で、主張は反同性愛、反中絶、反進化論、反共産主義、反イスラム、反フェミニズム、ポルノ反対、性教育反対、家庭重視、小さな政府、共和党支持である。

 とにかく「海が割れて道が出来た」とか「死人が復活した」とかという話を大真面目で信じている。世界のすべては神が6日間で創造したもので、天国と地獄があると考え、ハルマゲドン(終末)とイエスの再臨が間もなく来ると信じて疑わないのだ。多くの知性的な人々が進化論を真っ向から否定するのは世界中のキリスト教国でアメリカだけだろう。

 エバンジェリカルからみると、トランプの言動は荒っぽいが主義・主張がほぼ一致していて「正直な人間だ」となるのだそうだ。

 だから聖書の一節さえまともに覚えていないトランプだが、選挙公約だけはエバンジェリカルの考えにぴったりと寄り添っている。

 彼らの支持をつなぎ止めるため、今年はさらに手の込んだ芝居も打った。6月1日のことだ。ホワイトハウス周辺の騒乱で催涙弾の刺激臭がまだ漂う中、ダークスーツに青いネクタイ姿でホワイトハウスから現れたトランプは、側近や警護者とともに、すぐ近くのセント・ジョンズ教会に徒歩で向かった。

 同教会は1816年以来、歴代の大統領が訪れているため「大統領の教会」と呼ばれている由緒正しき聖堂である。同行した娘イヴァンカから聖書を受け取ったトランプはカメラマンが待ち受けていた教会の前で神妙な顔つきで立ち、聖火ランナーのように聖書を持った右手を肩の高さまで掲げた。

 なんてことはない。写真撮影のためだけのお膳立てだ。トランプは聖書を開くこともなく、教会に足を踏み入れることすらしなかったが、メディアを通して「俺は神に選ばれた信仰心あふれる大統領だ」という無言の映像メッセージをバイブルベルトの支持者たちに届けたのである。

 信仰を装って聖書を売って歩く詐欺師のことをアメリカでは昔から「コンマン」と呼ぶ。トランプは見事なコンマンなのだ。