世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した“現代の知の巨人”、稀代の読書家として知られる出口治明APU(立命館アジア太平洋大学)学長。世界史を背骨に日本人が最も苦手とする「哲学と宗教」の全史を初めて体系的に解説した『哲学と宗教全史』がついに10万部を突破。ビジネス書大賞2020特別賞(ビジネス教養部門)を受賞。
池谷裕二氏(脳研究者・東京大学教授)から「初心者でも知の大都市で路頭に迷わないよう、周到にデザインされ、読者を思索の快楽へと誘う。世界でも選ばれた人にしか書けない稀有な本」、宮部みゆき氏(小説家)から「本書を読まなくても単位を落とすことはありませんが、よりよく生きるために必要な大切なものを落とす可能性はあります」、なかにし礼氏(直木賞作家・作詞家)から「読み終わったら、西洋と東洋の哲学と宗教の大河を怒濤とともに下ったような快い疲労感が残る。世界に初めて登場した名著である」と絶賛された本が、12/25「日経新聞」に掲載された。だがこの本、A5判ハードカバー、468ページ、2400円+税という近年稀に見るスケールの本だ。
一方、スタンフォード大学・オンラインハイスクールはオンラインにもかかわらず、全米トップ10の常連で、2020年は全米の大学進学校1位。世界最高峰の中1から高3の天才児、計900人(30ヵ国)がリアルタイムのオンラインセミナーで学んでいるが、そのトップが星友啓校長だ。
星校長の処女作『スタンフォード式生き抜く力』も神田昌典氏(マーケティングの世界的権威・ECHO賞国際審査員)から「現代版『武士道』(新渡戸稲造著)というべき本。新しい世界に必要な教育が日本人によって示されたと記憶される本になる」と大絶賛。発売直後に2万部の重版が決まった。
今回、APUの出口学長とスタンフォード大学・オンラインハイスクールの星校長が初めてオンラインで対談。紆余曲折のまさかの人生で両校トップになった二人は、教育について、ビジネスについて、何を語ったのか。注目の初対談の続きをお届けしよう。(構成・藤吉豊)

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中等・高等教育の目的は2つしかない

出口治明(でぐち・はるあき)
立命館アジア太平洋大学(APU)学長
1948年、三重県美杉村生まれ。京都大学法学部を卒業後、1972年、日本生命保険相互会社入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年に退職。同年、ネットライフ企画株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年4月、生命保険業免許取得に伴いライフネット生命保険株式会社に社名を変更。2012年、上場。社長、会長を10年務めた後、2018年より現職。訪れた世界の都市は1200以上、読んだ本は1万冊超。歴史への造詣が深いことから、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では世界史の講義を受け持った。おもな著書に『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『仕事に効く教養としての「世界史」I・II』(祥伝社)、『全世界史(上)(下)』『「働き方」の教科書』(以上、新潮社)、『人生を面白くする 本物の教養』(幻冬舎新書)、『人類5000年史I・II』(ちくま新書)、『0から学ぶ「日本史」講義 古代篇、中世篇』(文藝春秋)など多数。

星友啓(以下、星):出口先生は、中等・高等教育の分野における学校の役割、教育の目的をどのようにお考えですか?

出口治明(以下、出口):中等・高等教育の目的は、2つしかないと思っています。

ひとつ目は、「最低限の武器を与える」ことです。

武器とは、社会を生き抜くための基礎的知識です。

政治、民主主義、お金、経済、性(SEX)の問題など、社会の根幹をなすしくみについて教えるのが教育です。

現在の日本の教育ではこれらすべてが十分教えられてはいませんが、特に性の問題が海外と比べて遅れています。ここをしっかり教えないといけない。

なぜなら、性暴力や望まない妊娠・人工中絶などの問題は学校でしっかりと性教育ができていないことに一因があるからです。

大人になって社会に出て自分ひとりで社会と向き合ったとき、武器がなければ、負けてしまいます。

2つ目は、「自分の頭で考える力を養うこと」です。

17世紀の哲学者、パスカルが述べたように、「人間は考える葦」です。

人間の人間たるゆえんは、自分の頭で考えること。自分の頭で考え、自分の言葉で、「こう思う」と自分の意見を言える人間になること。自分の頭で考え、人とは違うアイデアを生み出す力を育てることが教育の目的です。

社会に出て独り立ちしていくときに困らない「ベーシックな知識」を徹底的にたたき込む。それから、「考える方法論」を教えることに教育の目的は尽きる気がします。

星:同感です。先生のおっしゃるところを伺っていて、たとえば、アメリカの哲学者ジョーン・デューイの教育哲学を思い出していました。

教育の目的の一つは子どもたちを社会の一員として育てていくことです。

そのため、学校の中で民主的な考えやプロセスを体験できるようにする必要があります。

また、逆に学校は社会の民主的なプロセスの一部であり、その学校の中で社会を知る機会をつくることが必要だというのです。

現在の社会では、学校で学ばれていることと社会を生き抜くための力にまだまだ大きなギャップがあります。学校と社会がそうした分断をなくせるように、社会のコンテキストの中で教育を捉え直していく必要があります。