『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が10万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

「いい加減政治のことを知らないと騙されるかも」と感じたら最初に読むべき1冊Photo: Adobe Stock

[質問]
 政治を理解したいです。

 今まで政治に関心が無かったのですが、当事者の一人なのだから関心を持つべきだと思い至り、選挙に参加しようと考えています。ですが関心が無かった故、右も左もわかりません。

 情報源としてまずネットを考えましたが、様々な情報が錯綜し、何を基準にしていいかわからず、有益な情報が得られませんでした。また、関心が無かった理由のひとつに、ネットで政治のお話をされているかたは言動や思想が過激な方が多く見受けられ、アンタッチャブルな話題だと思っていたという事もあり、情報源として不安に感じます。

 他に情報源といえば図書館ですが、政治の歴史や仕組みならともかく現在進行形の事柄(選挙活動)に関して本があるわけでもなく。

 そこで質問なのですが、どこから情報を集めれば現状の政治について理解し、それを踏まえて選挙に反映できるのでしょうか。

図書館にある「選挙公報」から見えてくるものは多い

[読書猿の回答]
 まず図書館に書籍(≒古い情報)しかないというのは間違いです。現代の図書館は新旧の情報にアクセスできる場所です。

 もっともベースとなる定番の(相対的に古い)情報・知識を持っていないと、新しい情報のどこが新しいのか(そうでもないのか)そして正しいのか否かも判断がつきません。

 では判断のベースを作る書籍の紹介から始めましょう。実は近年ちゃんとした政治学者が書いた日本政治の入門書がたくさん出版されています。

 一夜漬けに近い今回のケースには、基礎知識とともに現代日本の政治的争点について賛否両論を取り上げた軸村上弘(2018)『新版 日本政治ガイドブック: 民主主義入門』がよいでしょう。

 もう少し時間があるなら放送大学の教科書である久米郁男(2011)『現代日本の政治(放送大学教材)』もおすすめです。

 さて、選挙に関して最新かつ公式の情報源は選挙公報です。各選挙ごとに選挙管理委員会が発行する、公職選挙の候補者の氏名、経歴、政見などを掲載した文書で、ご覧になったことがあると思います、実際少なくない人が読み、投票先を決める参考にすると言われています。先の書籍で基礎知識を入れておけば、読むだけでなく分析することもできるでしょう。

「あんなもの、選挙が終わればみんな忘れるだろうと、口当たりの良いことを無責任に並べてるだけだ」と思われるかもしれません。然り。しかし文書というのは残ります。残る故に検証可能な訳です。同じ公約を使いまわしているだけか、目新しく耳障りのよいフレーズを散りばめているだけかは、過去の選挙公報と比較すれば一目瞭然です。

 図書館には最新のものだけでなく、製本・刊本化された歴代の選挙公報が所蔵されています。またネットで選挙公報が解禁されて以降のものは、選挙公報.com(http://www.senkyok.com)が自治体の発行する選挙公報データを継続的に保存しており、閲覧することができます。

他にもエリアごとの得票率など詳しい選挙に関するデータをまとめた資料が図書館にはあります。

 地方選挙や各選挙区での地域的な政治的争点は、地域ごとの様々な課題を反映しています。そして地域のことを調べるには、その地域の図書館はなによりも強い味方です。

 たとえば図書館が所蔵する新聞の地域版や地方紙のバックナンバー、それに地域自治体の広報誌が使えますが、中でも一押しなのが各地の図書館が独自にあつめまとめたものです。郷土資料・行政資料の他にも、少なくない図書館が地域に関する新聞記事の切り抜きをしてまとめたりしています。これらは、その地域の図書館にしか無いデータベースであり、地域事情や地域課題など知るのにうってつけです。また地域に関する新聞記事の見出しをデータベース化してオンラインで検索できるようにしている図書館もあります(たとえば武蔵野市立図書館 https://www.library.musashino.tokyo.jp/newspapersearch?4)。

 自分なりにポイントとなると思った、人物なり政党なり争点なり地域課題なりの、背景や経過から最新情報までを調べるには、図書館からアクセスできる各種データベースが役に立ちます。各社の新聞記事データベースは、こうした段階まで関心が絞り込めていれば、すごぶる役立ちます。キーワードで記事を検索し、時系列順に並べ、書籍から得た知識を武器に批判的に読んでいくことが当面の目標になるでしょうか。