『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が10万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

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[質問]
 情報の取り扱いについて悩んでいます

 高校生です。食品汚染やそれらの情報の取り扱いについて悩んでいます。

 私は、お恥ずかしながら、身の回りのことに無頓着で、放射線や、その他の食品汚染が問題になってることを最近知りました。

 ネットで調べて見たのですが、全く安全か、全く危険か両極端な感じの話が多く、何を信じていいのかわかりません。

 こういった問題とはこれからも出会う気がする上、自分に関わることなのであまり中途半端にしたくないと思い相談させていただきました。

 どうかお知恵をお貸しください。

 質問は以下の3つです。
・統計の読み解き方や、信頼できる情報を見分ける方法が載った、ガイド本のようなものはありますか?
・「政府の嘘」や「産地偽装」など、「一般人じゃどうしようもないのではないか?」といった情報もいくらかありました。そういったものは差し引いて考えてしまってもいいのでしょうか?
・その他こういったことに関して知っておくと便利なことや本などご存じでしたらご教授願います。

信頼できない情報が生まれるには「理由」がある

[読書猿の回答]
 何故こうした問題にネットが役に立たないか(信頼できない情報ばかりなのか)、このメカニズムが分かれば、そうした状態に陥る代わりにどんなアプローチをとればいいのかも分かってきます。

 こうした問題についてネット(だけではありませんが)で信頼できない情報ばかりになるメカニズムは概略すると次のようになります。
1.不安にかられて緊急モードになると、ヒトの直観・感情で判断しがちになる
2.ヒトの直観や感情は《量》、とりわけ《頻度》や《確率》を扱うことが得意でない
3.しかしこの種の問題は《量》《頻度》《確率》を考慮しないと上手く判断できない
4.数の上では、直観・感情で判断する人が圧倒的に多い
5.ネットでの情報発信はコストが低く、圧倒的に数の多い直観・感情での判断による「自称・情報」や「自称・真実」が優勢になる

 ご質問にも「統計」という言葉があるように、この問題は《量》《頻度》《確率》を考慮して判断する必要があります。そのためには直観・感情での判断を抑制し、理性を働かせる必要がありますが、これは生まれつき誰もができることではありません。

 直観・感情での判断の方は生得的で、つまり遺伝子にプログラムされており、我々の先祖が長年暮らしたサバンナの環境で進化したものと考えられます。

 そうした環境では「ヤバイのか?そうでないのか?」の単純な二分法で判断し「ヤバイならとにかく逃げる」というのが適応的でした。じっくり考えていては肉食動物などに食べられてしまうからです。

 一方、《量》《頻度》《確率》を考えることは、人類がその歴史の中で失敗と克服を重ねながら培ってきたもので、遺伝子にプログラムされておらず、後天的に教育を受けトレーニングを積まないとできません。

 そしてトレーニングを積んだ人でも、パニックに落ちると、直観・感情での判断を優先しがちになります。

 詐欺はヒトのこの性質を利用しています。冷静に考えればわかりそうなこともパニックに陥らせると分からなくなり、とにかくその窮地を脱しようという行動を取りがちになるので、そこに罠を張るわけです。

 話を戻して、「自称・情報」や「自称・真実」の発生は、基本的にデマと同じです。

 災害後にデマが広がることがあるのは、
1.誰かに不安を話すことで、自分の不安が少し軽減する
2.不安に陥る状況は、そもそも情報不足で話せる内容は多くない
3.その情報不足な部分を「きっとこうだろう」と決めつけて補填してしまう
4.これを聞いた人は不安が高まり(なにしろ吟味しようにも情報が不足している)、また同じようなことを繰り返す

 こうしてみると分かるように、デマを流布する人たちも、悪意を持って情報空間を汚染しようとしている訳ではありません。

 多くは(自覚的には)善意によって「この真実を広めなくては」みたいなことを思っています。

 まとめると、直観・感情による判断は誰もができますが、「ある/ない」という両極端的なものとなりがちです。これに対して《量》《頻度》《確率》に基づいて判断することは、トレーニングが必要な上に、直観・感情での判断を抑制し理性を働かせる必要があります。

 最後にいくつか書籍を紹介しましょう。
・中西準子『食のリスク学』
今回の問題について《量》《頻度》《確率》に基づいて判断するには、具体的にどうすればいいのかを、この分野の第一人者が説明してくれます。

・『テロール教授の怪しい授業
マンガです。カルトのメカニズムに関して分かりやすく、「自称・情報」や「自称・真実」の発生を理解するのに役立ちます。

『統計でウソをつく法』
タイトル通りの本です。事例が沢山紹介されており、統計で騙されにくくなる読むワクチンだと言えます。