パーパスが基軸の組織は
レジリエンスが高い
「KPMGグローバルCEO調査2020」では、コロナ危機において迅速な意思決定を迫られる中で「パーパスが明確な基軸になった」「パーパスの見直しを迫られた」とする回答がいずれも約8割に達しました。
コロナ禍で多くの人々が在宅勤務を余儀なくされました。そうした分散型の労働環境において、企業が環境変化やリスクに迅速に対応したり、生産性を高めていくためには、分散して働く一人ひとりが自律的に意思決定し、自主的に動くことが大切です。
その時、方向性や価値観を何も共有しないまま、それぞれが意思決定し、行動していては、組織としてばらばらになってしまいます。逆に従業員がパーパスを共有できていれば、組織全体として意思決定や行動が大きくぶれることはありません。
パーパスが明確な基軸となっている組織は、コロナ危機のような劇的な環境変化や突然のリスクにも迅速かつ柔軟に対応できる。つまり、レジリエンスの高い組織となれるのです。
さらに言えば、パーパスは従業員一人ひとりの倫理観のよりどころとしても機能します。
近代資本主義の誕生と発展にプロテスタントの宗教的倫理観が大きく作用したことは、マックス・ウェーバーの著書からも明らかですが、勤勉や禁欲を重んじるそうした倫理観をいまの資本主義社会で維持するのは、非常に難しいことです。
特に人々の勤勉な労働ではなく、データが大きな価値を生み出すようになった21世紀においては、倫理観が大きく揺らいでいます。ビッグデータを握り、AIを活用してそこから利益を生み出す企業が、富を独占してしまう危険性が現実のものとしてあります。
そうした中で、社会の利益を犠牲にせず、持続的に自社の利益を上げていくためには、企業とそこで働く従業員一人ひとりが倫理観を高く持つ必要があります。そのよりどころとして、パーパスを活用すべきです。
パーパスを組織に浸透させ、従業員の意思決定や行動に落とし込むために有効な方法論はありますか。
一つは、組織としての重要な意思決定において象徴的な事例をつくることです。たとえば、新しい事業に進出する時や、M&Aを行う際などに、自社のパーパスに合致しているかどうかを判断基準にするのです。経営資源配分の判断基準としてパーパスを活用することは、組織全体に浸透させるうえで非常に有効です。
当社を例に申し上げると、「Inspire Confidence, Empower Change.」(社会に信頼を、変革に力を)をグローバル共通のパーパスと定めています。これが、KPMGの判断基準です。
私はKPMGコンサルティングというグループ会社のCEOを務めたことがありますが、コンサルティングビジネスは対象とする業種も業務領域も非常に幅が広く、ありとあらゆる案件を扱います。この案件を受けるべきかどうかを判断する時、私は常にパーパスを念頭に置いていました。
それは、儲かる案件であっても、パーパスに合致しなければ引き受けないという判断もあるということですか。
そうです。我々が最も大事にしているのは社会からの信頼です。まず信頼が先にあって、そのうえでビジネスが成り立つ。それが当社の経営モデルであり、戦略です。
ですから、たとえ大きな利益をもたらすとしても、社会からの信頼を損なうものであれば、ビジネスとして成立しないと判断します。なぜなら、長期的に見てサステナブルではないからです。
先ほども申し上げましたが、いまの若い世代は環境や社会への意識が非常に高く、パーパスに共感できる組織で働きたいという人がすごく増えています。社会からの信頼を裏切るような企業や、みずから掲げたパーパスに反する行動を取っているような企業では、誰も働いてくれなくなります。そういう意味でも、サステナブルではないのです。