パーパスを変革への
外圧として利用する
経営者が重要な意思決定に際してパーパスを基準として示すというのは、たしかに組織全体に大きなインパクトがありますね。
パーパスドリブン経営やパーパスブランディングを推進するために、「チーフ・サステナビリティ・オフィサー」など役員級の責任者を配置する企業も出てきました。パーパスを企業としてのビジョンやバリュー(価値観)としっかりと結び付け、それぞれの部署や従業員がパーパスに沿った意思決定やサステナブルなビジネスを行うように促すためには、そうしたCxOを任命するのも一つの方策でしょう。
そのほか、事業評価や人事評価にパーパスに関連する項目を組み入れることも、パーパスに沿った行動を促すインセンティブになります。
デジタル・トランスフォーメーションに関する議論では、日本企業が苦手なのはデジタルの活用ではなく、みずから変革することだという指摘があります。大きな変革を遂げるために、パーパスが役立つということはいえるのでしょうか。
日本で大胆な変革やイノベーションに成功している企業は、オーナー企業が多いですね。オーナー企業であっても経営がうまくいっていないケースはいくらでもありますから、オーナーが経営者として優れていることが大前提ですが、オーナーは創業精神を体現する存在であり、その創業精神やパーパスに沿って大胆な決断をしやすい立場にあるといえます。
さらに、自分の判断が企業としての存続に直結しますので、社会の動きに対して非常に敏感な人が多い。オーナー経営者が優れた洞察力で世の中の変化をしっかりと見据えて、その変化に対応する大胆な決断をしていくことで、大きな変革を起こすことができます。たとえ失敗しても責任は自分にあるので、変革を恐れないという面もあります。
裏を返せば、社会の動きに対する感度が鈍く、失敗を恐れ、変化を嫌う組織では、大きな変革やイノベーションは起こらない。そうした企業は、過去の成功体験に縛られ、既存の事業を続けることを優先しがちです。
そのような企業において、パーパスをある種の外圧として変革に役立てることはできるかもしれません。
先に述べた通り、ステークホルダーの利益は変化し、それによって企業への期待も変化します。その変化に対応することがパーパスを定義する目的ですから、パーパスに沿った経営とは、常に変化する経営でなくてはなりません。既存のビジネスを何も変えずに、そのまま続けていてはステークホルダーの期待に応えることはできないのです。
パーパスに忠実であるためには、変革は当然である。その意識を組織内で共有することができれば、社会の動きに鈍感ではいられないし、変革を恐れることもなくなるのではないでしょうか。
企画・制作|ダイヤモンドクォータリー編集部