世界のCEOを対象に行った「KPMGグローバルCEO調査2020」では、新型コロナウイルス感染症を機に、経営者がパーパス(存在意義)の重要性を再認識していることが明らかになった。KPMGジャパンの森俊哉チェアマンは、変化の激しい混迷の時代にこそ、パーパスを基軸としてレジリエント(強靱)な組織を構築すべきだと話す。

社会の利益を犠牲にしないために
パーパスを定義する

編集部(以下青文字):パーパスに基づく経営を世界中の経営者が強く意識するようになっています。日本では創業の精神を明文化し、それを経営理念として掲げる企業が数多く存在します。そうした企業がパーパスを定義する意義は何でしょうか。

KPMGジャパン チェアマン 森 俊哉
TOSHIYA MORI
港監査法人入所後、米国KPMGを経て、2004年あずさ監査法人設立時に代表社員、2015年専務理事就任。2018年KPMGジャパンのチェアマンに就任。KPMGインターナショナルのグローバルボードメンバーも務める。

森(以下略):創業精神を経営理念として大切にしている日本企業が多いことは確かです。

 有名なところでは、三菱グループの根本理念である「所期奉公」「処事光明」「立業貿易」の三綱領や、住友グループの事業精神として受け継がれている「信用を重んじ確実を旨とし」「浮利に走り、軽進すべからず」「自利利他公私一如」などが、すぐに思い浮かびます。あるいは、近江商人の「三方よし」の精神を経営理念の中核に据えている企業も少なくありません。

 こうした精神は、いずれも社会との関係を強く意識したものであり、いまやグローバル共通の経営課題となっているESG(環境、社会、ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)に通じる部分があります。

 精神的な支柱として優れたものであることは間違いないのですが、言葉が難しかったり、抽象的だったりすることもあり、歴史的背景や文化をともにしていない人には伝わりにくいのではないでしょうか。その典型が、国籍や世代が異なる人たちです。

 日本企業の海外オペレーションの比率が高まる中で、海外グループ企業の人たちに本当の意味で経営理念が伝わっているのか。あるいは、デジタルネイティブであり、環境や社会への意識が非常に高いZ世代やミレニアル世代の一部の若い人たちにも、共感を得られるのか。

 そういう観点から、創業精神を出発点としてパーパスを再定義する意義は、日本企業にとっても非常に大きいと思います。

 ESGやSDGsとの関係において、パーパスをどう位置付けるべきでしょうか。

 ESGもSDGsも、株主だけでなく顧客や従業員、取引先、地域社会などさまざまなステークホルダーと対話し、それぞれのステークホルダーと建設的な関係を築くことが前提となります。

 パーパスは、すべてのステークホルダーとの関係において企業の存在意義を示すものであることが不可欠です。少し視点を変えて言うと、すべてのステークホルダーに受け入れられる企業でないと、ビジネスそのものがサステナブル(持続可能)ではなくなってしまうということです。

 つまり、パーパスを定義し、明確にする目的は社会の利益を犠牲にしないで、自社が持続的に利益を上げていくビジネスモデルをつくることと言っていい。まさに長期的な経営戦略そのものです。

 ですから、経営会議や取締役会でパーパスをじっくりと議論し、合意事項として経営の執行にしっかりと組み込んでいくことが重要です。

 ステークホルダーにとっての利益は、それぞれのステークホルダーが置かれた状況や時代の流れによって変化します。企業はその変化を敏感に察知し、自社のビジネスを見直して関係を再構築していく必要がありますが、パーパスはそうした変化に対応するうえでの基軸となり、経営陣が一致団結して対応することを可能にします。