筆者はこの1年、「書物ほど異国へ私たちを運んでくれる船はない」というエミリー・ディキンソンの詩の一節を何度も思い起こした。多くの人と同じように、筆者も今年はこれまで以上に読書による癒やし効果を必要としていた。神経科学者や心理学者(高校の英語の先生も)が言うように、書物は脳に良い。そして、その効果は今、特に重要さが増している。書物は私たちの世界を広げ、逃避場所を提供し、目新しさや驚き、興奮を与え、ドーパミンを増加させてくれる。視野を広げ、他者への共感を促してくれる。また、社会生活を向上させ、人々をつないでくれる。書物はまた、気晴らしをしたり、ネガティブ思考の連鎖を断ち切ったりする手助けもしてくれる。完全に書物に没頭した、いわゆる「フロー状態」に達しているとき、脳の「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」は恐らく沈静化している。こう話すのは、米ブラウン大学マインドフルネスセンターで研究を指揮する精神科医のジャド・ブリュワー氏だ。DMNは、何もしていないときに活性化する脳領域のネットワークで、心配や反すうにさいなまれることにもなる。