中国の習近平国家主席が昨年、電子商取引大手アリババグループ傘下のアント・グループの新規株式公開(IPO)を中止に追い込んだ際、その真意は明らかと思われた。習氏はアントが金融システムのリスクを高めていると懸念したうえ、自らが旗を振る金融監視強化の取り組みを創業者の馬雲(ジャック・マー、56)氏が批判したことに激怒したとみられていた。だが、中国当局者や政府顧問によると、もう一つの重要な理由があった。アントの複雑な所有構造や、世界最大規模のIPOで利益を手にするはずだった関係者を巡り、中央政府は神経をとがらせていた。IPOの数週間前になって、目論見書でアントの複雑な所有構造が曖昧に表記されていることが中央政府の調査で分かった。これまで報じられていなかったこの調査を知る当局者や政府顧問の話で明らかになった。幾重もの不透明な投資構造を通して同社の株を所有していたのは、人脈豊かな中国の有力者たちで、中には習氏やその派閥の対抗勢力となり得る政治家一族とつながりを持つ者もいた。