メディアには「女のカラダ」に関する都市伝説があふれています。「あたためは生理痛にも妊活にも効く」「仕事をしすぎるとオス化する」「恋愛やセックスをしていないと女性ホルモンが枯渇する」……。これらはどれも、医学的には根拠のない情報。でも、それに振り回されて、不調のスパイラルに陥ったり、落ち込んだりする女性は少なくありません。
いまの医学でわかっている「ほんとうのこと」だけをベースに20代~40代女性の、身体や性の悩みに答えた話題の書『医者が教える女体大全』の著者である宋美玄先生に、日本でも接種が始まったばかりの子宮頸がんの9価ワクチンについて聞きました。

ついに日本でも接種可能に!子宮頸がんの90%を予防する新ワクチンPhoto: Adobe Stock

子宮頸がんワクチンは今までもあったが……

 昨年8月に発売した『医者が教える女体大全』の中で、子宮頸がんワクチンについて説明していますが、本書執筆時には、まだ承認されていなかった新しいタイプの子宮頸がんワクチンが、2021年2月24日から日本でも接種できることになりました。これは、子宮頸がんの予防にとって、かなり大きな前進です。

 子宮頸がんはウイルス性のがんで、ヒトパピローマウイルス(HPV)が、主に性交渉で感染することによって起こり、性経験がある女性の50~80%は、生涯で一度はHPVに感染するともいわれています。100種類あるHPVのうちがん化するのは15種類といわれており、感染してもウイルスの90%は自然と体外に排除されますが、運悪く何年も子宮にとどまると、がん化するリスクがあるのです。そのウイルス感染をふせぐための手段が、子宮頸がんワクチンです。

 ところが、「子宮頸がんワクチン」にも、実はいろいろな種類があるのです。

9価のワクチンは何が違うのか?

 これまで国内で接種できた子宮頸がんワクチンは、2価の「サーバリックス」と4価の「ガーダシル」でした。先ほどお話したとおり、15種類のHPVウイルスががん化する可能性がありますが、そのうち2種類に対して予防できるのが2価で、4種類なら4価という意味です。つまり15種類のうち、がん化の可能性が高い2種や4種に対してのみ予防効果があり、4価で子宮頸がん全体の60%~70%がカバーできると言われていました。

 ところが、2月24日から打てるようになった「シルガード9」は9価で、9種のHPVに対して予防効果を発揮でき、これにより、子宮頸がんの原因となるHPV型の約90%をカバーすることができるようになったのです。さらに、子宮頸がんだけではなく、外陰がん、膣がんの予防効果も期待できます。

 ただ、現在、4価ワクチンは定期接種のため対象者(小学校6年生~高校1年生女子)であれば公費(無料)で接種を受けることができますが、残念ながら9価ワクチンはまだ定期接種化されておらず、自費(3回で10万円程度が多いがクリニックによって違うので問い合わせを)での接種となります。

子宮頸がんワクチンは性交渉後の女性が打っても意味がある

 こちらの記事でもお話しした通り、子宮頚がんワクチンは性交渉前に受けなければ意味がないと誤解している方が多いのですが、性交渉後の女性であっても、HPVウイルスは自然排泄されることも多いので、感染したHPVが消失したあとの、再感染の予防効果はあります。オーストラリアでは45歳までが9価ワクチンの接種対象となっており、45歳くらいまでをメドに考えるといいと思います。

 ただし、いずれにしても、ワクチンですべての子宮頸がんを防げるわけではないので、「子宮頸がん検診」も併せて受診することをおすすめしています。

『医者が教える女体大全』では、意外に知られていない女性の身体や病気について医学的に正しいことだけを書いています。そちらもぜひ参考にして、正しい知識をつけ、自分の身体を守ってください。

【訂正】記事初出時より以下のように補足・修正しました。1ページ目「9価のワクチンは何が違うのか?」の最後の行:(3回で11万円程度)→(3回で10万円程度が多いがクリニックによって違うので問い合わせを) 同項目の後ろから3行目:(小学校1年生~高校1年生女子)→(小学校6年生~高校1年生女子)(21年3月1日12:30/21年3月2日7:30 書籍オンライン編集部)
監修/宋美玄(そん・みひょん)

産婦人科専門医・医学博士・FMF認定超音波医。
1976年、兵庫県神戸市生まれ。大阪大学医学部医学科卒業後、大阪大学医学部附属病院、りんくう総合医療センターなどを経て川崎医科大学講師就任。2009年、ロンドンのThe Fetal Medicine Foundationへ留学。胎児超音波の研鑽を積み、2015年川崎医科大学医学研究科博士課程卒業。2017年、東京・丸の内に「丸の内の森レディースクリニック」を開業。女性医療の現場に従事する傍ら、テレビ、インターネット、雑誌、書籍などで情報発信を行う。
シリーズ80万部突破のベストセラー「女医が教える 本当に気持ちのいいセックス」シリーズ(ブックマン社刊)ほか、「新装版 産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK」(内外出版社刊)、「セックス難民~ピュアな人しかできない時代~」(小学館新書)など、著書多数。婦人科医の視点での社会問題の解決や、ヘルスリテラシーの向上にも取り組んでいる。迷信やトンデモ情報が多い”女体”周りのウソを暴き、今医学で分かっている本当のことだけを書いた『医者が教える女体大全』(ダイヤモンド社刊)が話題。