「人の記憶に残る人には、共通点があります」
そう語るのはアメリカン・エキスプレスの元営業である福島靖さん。世界的ホテルチェーンのリッツ・カールトンを経て、31歳でアメックスの法人営業になるも、当初は成績最下位に。そこで、リッツ・カールトンで磨いた「目の前の人の記憶に残る技術」を応用した独自の手法を実践したことで、わずか1年で紹介数が激増。社内で表彰されるほどの成績を出しました。
その福島さんの初の著書が記憶に残る人になるガツガツせずに信頼を得る方法が満載で、「人と向き合うすべての仕事に役立つ!」「とても共感した!」「営業が苦手な人に読んでもらいたい!」と話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、著者が寿司屋で遭遇した「記憶に残る大将」について紹介します。

「人生でいちばん記憶に残った寿司は、一貫で何千円もするような高級寿司ではありませんでした」ある営業マンが感動した、大将の「何気ない提案」とは?Photo: Adobe Stock

寿司屋の大将からの「意外な提案」

 上京して間もなかった約20年前、アルバイト先の先輩に寿司屋に連れていってもらったことがあります。まだ20歳そこそこの僕には敷居の高い経験でした。何から頼めばいいかわからず、自分でも知っている「サーモン」を見つけて安心したのを覚えています。

 でも箸で掴んだサーモンを醤油皿に運ぼうとした瞬間、「ちょっと待って!」と、大将に止められてしまいました。

「え? 何か粗相をしてしまったかな?」

 内心ドキドキの僕に、大将は「これで食べてみて!」と、あるものを差し出しました。

 それは、ポン酢でした。

人生でいちばん記憶に残った「寿司の味」

「寿司にポン酢? いや、絶対に合わないでしょ……」

 そう思いながら、僕は言われたとおりにポン酢をつけて食べてみました。

 ……絶品でした。
 サーモンの脂に、ポン酢の酸っぱさと爽やかさが見事に合っていたんです。感動した僕は、その後、サーモンばかり頼んでしまいました。

 サーモンにポン酢をつけたら美味しかった。
 ただそれだけのことですが、今までに食べたどんな寿司よりも記憶に残っています。

 それから数年後、東京都心にできた回転寿司のチェーン店に行き、僕はふたたび驚きました。醤油やガリにならんで、当たり前のように「ポン酢」が置かれていたからです。あの寿司屋の大将は、大手チェーン店が辿り着いた結論を、その何年も前から先駆けて実践していたんです。

強く記憶に刻まれた「ワケ」とは?

 人と違った行動や持ち物を見たお客様は、その理由が気になってしまいます。ちょっと過激に表現するなら、お客様に興味を持ってもらえる「落とし穴」になるんです。そこに込められた意味に共感したときに、お客様はファンになってくれます。

 あの寿司屋の大将は、ただ「他の店とは違うことがやりたかった」わけではないでしょう。きっと大将は、こう考えていただけだと思います。

「なんで寿司には醤油なんだろう?」
「他に合うものはないのかな?」

 記憶に残る人とは、ただ型を破っているだけのアウトローではありません。当たり前のことに疑問を持ち、自分の頭で意味を考えた結果、「こっちのほうがいいじゃん」と、結果的に型を破ってしまった人たちのことなんです。

(本稿は、『記憶に残る人になるートップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルール』から一部抜粋した内容です。)

福島 靖(ふくしま・やすし)
「福島靖事務所」代表
経営・営業コンサルティング、事業開発、講演、セミナー等を請け負う。高校時代は友人が一人もおらず、18歳で逃げ出すように上京。居酒屋店員やバーテンダーなどフリーター生活を経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。31歳でアメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに入社し、法人営業を担当。当初は営業成績最下位だったが、お客様の「記憶に残る」ことを目指したことで1年で紹介数が激増し、社内表彰されるほどの成績となった。その後、全営業の上位5%にあたるシニア・セールス・プロフェッショナルになる。38歳で株式会社OpenSkyに入社。40歳で独立し、個人事務所を設立。『記憶に残る人になる』が初の著書となる。