大企業の社長や起業家、科学者など、いわゆる社会的に成功した方々にたくさん取材する機会を得てきました。その数は、3000人を超えています。誰もが知る有名な会社の社長も少なくなく、「こんな機会はない」と本来のインタビュー項目になかったこともよく聞かせてもらいました。インタビューで会話が少しこなれてきているところで、こんな質問を投げかけるのです。
「どうして、この会社に入られたのですか?」
数千人、数万人、中には数十万人の従業員を持つ会社の経営者、あるいは企業を渡り歩いて社長になった人となれば、仕事キャリアに成功した人、と言って過言ではないと思います。仕事選び、会社選びに成功した人、とも言えるでしょう。ところが、そんな人たちの「仕事選び、会社選び」は、なんともびっくりするものだったのです。

「一番キツいところに配属してください」と言った新入社員のその後Photo: Adobe Stock

一番キツいところに配属を求めた出木場久征さん

 配属が気に入らなくて、会社そのものを辞めてしまう人もいます。私も最初に就職したアパレルメーカーを辞めたのは、ここにも理由の一端があったのですが、近年ではこの配属ギャップで辞める人はかなり多くなっていると耳にしています。

 売り手市場で人手不足、多くの会社が若手を求めていて、引く手あまただけに転職が難しくない。おまけに転職エージェントがいろいろ動いて、会社を見つけてきてくれたりする。転職のハードルはとても低いものになっているようです。

 しかし、今の経営者世代の時代はそうではありませんでした。だから、意に沿わない配属になったとき、選択肢は2つしかありませんでした。不満を持ちながら我慢して耐える日々を送るか、嫌ではあるけれど前向きに受け止めて頑張ろうとするか。

 成功しているビジネスパーソンの多くが、後者だったのだと思います。後ろ向きに受け止めたところで、どうにかなるわけではない。だったら、ポジティブに捉えて、目の前のことにしっかり向き合おうと覚悟する。実際に一生懸命やってみると、そこに大きな意味があったことに気づける。

 これは30代、40代と過ごしていけば気づけることですが、仕事人生を送っていれば、必ず思い通りにはいかない苦しい局面にぶつかります。苦しい仕事にも直面する。そこで活きてくるのは、苦しいこと、辛いことを乗り越えた過去の経験なのです。

 むしろ、最初から思うようにいかないことは、ラッキーなのかもしれません。苦しさに直面し、自分と向き合う時間を得ることができるからです。そのことが間違いなく成長をもたらします。

 それがわかっているので最初から苦労を求めていた、という経営者もいます。40代の若さでリクルートホールディングスの社長に就任した出木場久征(いでこばひさゆき)さんも、その一人でしょう。早稲田大学商学部を卒業後、もともと3年ほどで辞めて起業しようと考えていたという出木場さんは、入社前、会社にこう伝えるのです。

「一番キツイところに配属してください」

 待っていたのは、驚くべき配属でした。一覧表を見ると、同期の行き先は部門名。ところが、出木場さんの行き先には名称の前に「株式会社」がついていました。カーセンサーの営業専属代理店への出向だったのです。

 しかも、いきなり最初の週からエリアを与えられ、「飛び込み営業してこい」と。同じ配属になったもう一人の同期はすぐに辞めてしまいました。

 しかし、出木場さんは現場目線で課題に気づき、その後、インターネットを使った画期的な販売方法を確立させることになります。そして出向先での5年の実績をひっさげ、リクルートに戻ると猛烈なスピードで出世を遂げていくことになるのです。

 厳しい出向という経験をしたからこそ、大きな力がついたのです。

※本記事は『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』上阪 徹(ダイヤモンド社)より、抜粋して構成したものです。