新型コロナウイルスの感染対策で、イタリア南部ナポリにある伝説のカフェ、グラン・カフェ・ガンブリヌスに人影はない。いつものにぎわいが消えた店先からは、ある論争が同国のコーヒー関係者を憤慨させていることは想像できない。エスプレッソはナポリの文化か、それともイタリア全体の文化か――。それぞれの立場からエスプレッソ文化の世界遺産登録を目指す動きがあり、ガンブリヌスも関わっている。しかし最近、登録申請の一本化が勧告され、対立の行方は双方の対応にかかっている。論争の内容を一言で表すなら、エスプレッソの伝統という名誉に浴するべきは、イタリア人か、それともナポリの人々だけか、という問題だ。エスプレッソを巡る論争を地域間の対立の象徴と見る人もいる。ナポリを含む南部は力の強い北部のせいでまた影が薄くなると訴える。