経営陣のコミットメントで
ESGが今後50年・100年の転機に

ESG視点を持った経営で守りから攻めの領域へ

ESGに対する関心が高まっている。世界最大級の運用会社ブラックロックの日本法人、ブラックロック・ジャパン代表取締役社長 CEOの有田浩之氏は、投資家の資金がESGに向かっており、これから企業が資金調達する際、ESGの視点で企業の取り組みが問われると指摘する。一方でこれらの潮流は、日本企業にとって大きなチャンスでもあると語る。その理由やポイントを聞いた。

経営陣のコミットメントでESGが今後50年・100年の転機に

2013年以降に大きな転機
投資家が寄せるESGへの関心

―ESG投資に大きな注目が寄せられています。どのような経緯や背景があるのでしょうか。

 一つのきっかけは、2013年にイギリスで開かれた主要8カ国首脳会議(G8)で、イギリスのキャメロン首相(当時)が「インパクト投資」(収益を確保しながら社会的課題の解決を目指す投資)の必要性を訴えた場面にあると思っています。それにより「インパクト投資タスクフォース」が発足しました。その後、2015年9月には国連で「持続可能な開発目標」(SDGs)が採択され、同年12月には「パリ協定」も採択されました。同月には、世界の金融当局者で構成する金融安定理事会の「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)も設置されています。そういった点では、この2013年から2015年が、大きなターニングポイントといえるでしょう。

 国内においては当初、ESGというよりもCSR(企業の社会的責任)の観点で取り組む企業が多いのが実情でした。しかし最近では、「nice to have」(あればよいが、なくてもいい)ではなく、「must have」(必ず必要なもの)へと、企業でも認識が高まりつつあります。

 2019年5月には、日本でも企業や投資家が情報開示のあり方を議論する「TCFDコンソーシアム」が発足しました。現在約450社の企業や金融機関がこれに賛同を表明しており、この数は世界で最多です。

―ESG投資の判断基準となるファクターには、どのようなものがあるのでしょうか。またそれによって企業の資産評価は、これまでとどのように変わってくるのでしょうか。

 企業の情報開示については、TCFDやアメリカのSASB(持続可能性会計基準機構)などの開示ルールがあり、当社でも企業に採用を促しています。ただし、国際的な統一基準はまだできあがっていません。

 一方で企業の評価について、ブラックロックでは専任のESGのリサーチグループを置いており、そのグループを中心に定量・定性の両面から分析を実施しています。具体的にはESGをE(環境)、S(社会)、G(企業統治)の大きく3つに分け、さらに小項目に細分化、全体で15の項目で企業を評価しています。たとえば、Eでは資源の管理、Sは外部利害関係者の管理、Gは取締役会の質や企業経営などが大きな柱の一つです。

 15の項目を評価の軸としてブラックロックが独自にESGスコアを算出しています。これは国際基準ではありませんが、それを活用して各ポートフォリオマネジャーが銘柄を選定する場合もあります。また個別の銘柄だけでなく、金利、為替、インフレ、景気動向、さらには気候変動のリスクなど、マクロの条件も加味しながら判断を行っています。

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