人の心に火をつける“場”づくりに挑む
会社と社員は、選び、選ばれる対等の関係

「個」を活かす組織とラーニングデザイン

「管理する人事から、支援する人事へ」。ソニーグループは、「世界を感動で満たす」というパーパス(存在意義)の下、「個」を活かし、イノベーションを生み出し続ける人材を採用・育成するため、人事のあり方を抜本的に見直した。その狙いについて、同社執行役専務の安部和志氏が、アビームコンサルティングの岩井かおり氏、下村雄吾氏と語り合った。*下村氏はマレーシアから、オンラインで対談に参加した。

創業から受け継がれた理念を
いまの言葉でシンプルに再定義

下村 : ソニーグループは現在の経営チームになってから、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスと、「夢と好奇心」「多様性」「高潔さと誠実さ」「持続可能性」という4つのバリューを制定されました。どのような目的で制定されたのでしょうか。

ソニーグループ 執行役専務 人事、総務担当
 安部和志 氏Kazushi Ambe
1984年ソニー(現ソニーグループ)入社。ソニー・エリクソン・モバイル・コミュニケーションズAB VP、ソニー・コーポレーション・オブ・アメリカSVP, Human Resourcesなどを経て、2016年ソニー執行役員コーポレートエグゼクティブ 人事、総務担当。2018年執行役常務 人事、総務担当。2021年6月より現職。

安部 : ソニーは、厳しい事業環境に置かれた時期がしばらく続きました。多様な社員がいて、多様な事業を手がけているのが当社の特徴ですが、成長が停滞したのは、それぞれの向かうベクトルが必ずしも一致していなかったことが、原因の一つではなかったかと思います。

 業績が回復して安定した後、多様性による価値創造で持続的な成長を確かなものとするために、2018年にトップに就任した吉田憲一郎(現 代表執行役 会長 兼 社長 CEO)が中心となってパーパスとバリューが制定されました。

 これは創業以来受け継がれてきた企業理念が、吉田をはじめとする経営チームの言葉でわかりやすく再定義されたともいえます。

岩井 : 多様な社員の方々が、多様な事業に取り組むソニーだからこそ、共通のパーパスを持つことが重要だということはよく理解できます。他方、一般論として社員一人ひとりがパーパスを“自分事”にしないと組織としての力にはつながりません。パーパスを自分事として仕事に取り組んでもらうことに苦心している企業も多いのが実情です。

安部 : パーパスを制定するプロセスでは、吉田を中心とする経営チーム全員が腹落ちするよう、約1年がかりで議論を重ねました。「結局、我々ソニーは何がやりたいんだ」ということを突き詰めた結果、どの事業や社員にとっても最終的には「やはりお客様に感動を届けたい」というところに行き着きました。

 おっしゃる通り、経営チームが議論を通じて腹落ちしても、それをどう組織に浸透させていくか、は重要な課題です。結局、CEOをはじめ経営チームのメンバーが、自分の言葉で社員一人ひとりに継続的、積極的に語りかけていくことが何よりも重要で、あらゆる施策の基本だと思います。

岩井 : その結果が、社員の方々の意識や行動にどう反映されているのか、モニタリングしていらっしゃいますか。

安部 : パーパスに対する共感度、納得度は社員エンゲージメントに表れるとの理解の下、ソニーグループ全体で定期的に行っている社員の意識調査によってエンゲージメント指標をモニタリングしています。その結果は2020年度の統合報告書で初めて公表しましたが、今年(2021年)はさらにそれを上回り、安定的に高いスコアで推移しています。

 多様な社員と多様な事業を抱えるソニーにとって、エンゲージメントは持続的な成長のために重要な経営指標の一つと考えており、経営チームメンバーの評価基準の一部にも組み入れています。

岩井 : パーパスやバリューを、事業戦略や人材戦略などとひも付け、意思決定や評価の基準にしているということですか。

安部 : 吉田は投資家を対象とした2021年の経営方針説明会で、パーパスで戦略を語ることを試みています。ソニーという会社は何のために存在するのかというところから、すべての戦略を語ることができないと、経営者としてさまざまなステークホルダーの期待に十分に応えられないと考えているのだと思います。

TOP