KDDIは早くからESGの取り組みを進めてきた。ステークホルダーの関心の高まりを踏まえ、ESG関連情報の定量的なデータ開示をする試みも始めている。実現のきっかけは、ESG活動と企業価値向上の相関を定量的に分析し「顕在化」するアビームコンサルティングのDigital ESGの仕組みだ。KDDIが、効果が見えづらかった非財務情報を分析し、企業価値との関係性を明らかにした狙いや効果、展望について、KDDI執行役員の最勝寺奈苗氏と、プロジェクトをサポートしたアビームコンサルティングシニアマネージャーの今野愛美氏が語る。
投資家が非財務情報に関心
ESG関連情報開示の必要性とは
今野 : アビームコンサルティングでは、以前から財務会計システムなど、さまざまな面でKDDI様と関わりがありましたが、最勝寺さんに初めてお目にかかったのは、当社が2020年2月に企業のエグゼクティブの皆様向けに開催したラウンドテーブルの場だったと記憶しています。当社にとっても、データ活用による企業変革のための非財務情報価値の顕在化や、そのための仕組みづくりのご提供を本格的に行うタイミングでした。
最勝寺奈苗 氏Nanae Saishoji 同志社大学文学部卒。1年間経済誌の編集業務に携わった後、1988年第二電電(現KDDI)入社。部門別採算管理や経営計画の作成を中心とした経営管理業務を担当。3年間出向した旧日本イリジウムでは、経営管理業務のほかに料金シミュレーション、各種スポンサーシップ業務を担当。2003年から8年間IR室長を務めた後、経営管理本部 財務・経理部長を経て、2018年理事・経営管理本部長、2020年4月より現職。
最勝寺 : それまでもアビームコンサルティングが主催するDXなど、業務改革推進のセミナーなどには何度か出席したことがありましたが、ラウンドテーブルのご案内をいただいた時は、ちょうど非財務資本であるESG(環境、社会、ガバナンス)関連情報の開示強化について考え始めた頃でした。
私が所管するのは会計と開示の領域です。投資家からの質問を受ける中で、非財務情報を重視する投資家が増えていることを感じていました。統合レポートで非財務情報の開示は行っていたものの、開示の方法も含めて検討の余地を感じていました。ESG関連情報の定量開示の画一的なルールが定まっていない状況で、市場に対して後れを取ってもいけませんが、あまり早く取り組みすぎてもステークホルダーのニーズに応えるものにならない可能性があります。他社の動向に目を配りながら、何かヒントが得られればという思いで、ラウンドテーブルに参加しました。
今野 : たしかにここ数年で、ESG関連情報の開示に対するニーズが急に高まっているように私も感じています。そのような機運は2017年頃からありましたが、企業のESG活動をより推進していかなければいけないといった抽象的なイメージでした。それを推進していくために何をしなければならないかを考えた時に、定量化や経営との融合といったキーワードがあぶり出されてきました。そこで、いくつかの企業様と試験的な取り組みを実施し、一定のモデル化ができた段階で、ラウンドテーブルを開催しました。
最勝寺 : 投資家がESG関連情報の開示により関心を持つようになった背景には、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあると思います。コロナ禍によって、企業の社会貢献のあり方や、それに対する投資家の要請がだいぶ変わってきたように感じています。
当社には、一人ひとりが持つべき考え方、価値観、行動規範を示した「KDDIフィロソフィ」があり、その中で社会貢献やステークホルダーに対する姿勢などが明示されています。私はIR室長を務めていた頃から、株主の利益を重視する株主至上主義への偏重には思うところがありましたので、昨今の流れのほうが自然だと感じています。