歴史は繰り返す

 現代の経済学の基礎の多くは、アダム・スミスが著した『国富論』にあると言われる。アダム・スミスが経済学の父と呼ばれる所以だ。

 アダム・スミスはこの本を、重商主義を論駁する目的で書いたと言われる。重商主義を信奉する人たちは、「輸出はよいが輸入は困る」と考える。輸出をすれば外貨を稼げるが、輸入が行われれば国内市場が打撃を受けると考えるからだ。重商主義は保護主義の典型である。

 アダム・スミスが国富論を世に出したのは1776年である。それから250年近くたっているが、世の中で展開されている議論には、あまり大きな違いは見られない。

 相変わらず「輸出は利益、輸入は損失」というような議論が展開されている。経済界は自由貿易協定を進めないかぎり輸出で不利になる、と主張する。もっと輸出がしやすい環境にしないと、利益を韓国企業などにさらわれると主張するのだ。

 一方で保護主義者は、海外からの輸入を自由にすると、低価格の商品や物品が大量に入ってきて、国内の生産者が大きな打撃を受けるという。それだけでなく、海外からの輸入を自由にすれば、さまざまな食料が入ってきて、日本の食の安全が侵されかねないと考える人もいるようだ。

 経済学の世界では、アダム・スミス以来の多くの学者が論じ分析してきた自由貿易の利益の意義を信じる人が大半だ。だから、大半の「経済学者」はTPPにも賛成している。ただ、「経済学者」とカッコでくくったのには理由がある。

 大学で教鞭をとっている「経済学者」のなかにも、TPPに反対している人がいる。ただそうした人たちの経歴を見ると、いわゆるマル経(マルクス経済学)を学んだ人たち、農林水産省の役人を経て大学教授になった人たち、あるいはマル経ではないが政治経済学とでもいうのか、経済学の主流とは少し違った分野で研究をしてきた人たちが多いように思われる。