『アマゾンの最強の働き方──Working Backwards』が刊行された。アマゾン本社の経営中枢でCEOジェフ・ベゾスを支えてきた人物が、アマゾンの「経営・仕組み・働き方」について詳細に公開した初めての本として大きな話題になっている。
アマゾンで「ジェフの影」と呼ばれるCEO付きの参謀を務めたコリン・ブライアーと、バイスプレジデント、ディレクター等を長年担ったビル・カーが、「アマゾンの働き方を個人や企業が導入する方法」を解き明かした、画期的な一冊だ。
本稿では『アマゾンの最強の働き方』より、ベゾスが不調のサービスを仕切るリーダーに、参考にすべき映画について語った部分を紹介する。

アマゾン創業者がリーダーに参考にさせた「意外な映画」Photo: Adobe Stock

部下に「高い水準」を要求せよ

 アマゾン・アンボックス(不評に終わったアマゾンの動画ダウンロードサービス)のサービス開始から間もないころ、私は上司のスティーブ・ケッセルに呼ばれた。彼は、CEOのジェフ・ベゾスと興味深い話し合いをしたことを教えてくれた。

 ジェフは、デジタルメディアの組織に高い水準を設定し、それを強く要求することがスティーブの任務だと断言したそうだ。

 そして要点をはっきりさせるため、『アビエイター』という映画を観たことがあるか、とスティーブに訊いた。大富豪の実業家で飛行士、映画製作者であるハワード・ヒューズの伝記的物語だ。

 ジェフは、レオナルド・ディカプリオ演じるヒューズが、最新のプロジェクトの進捗状況を確認するため、所有する航空機製造工場の1つを訪れた場面のことを話したという。プロジェクトというのはヒューズH-1レース機のことだ。最高速度の新記録を樹立するために設計された1人乗りの優雅な航空機である。

 ヒューズはこれを丹念に観察し、機体の表面を指でなぞった。開発チームは落ち着かない様子でそれを見つめていた。

 ヒューズは満足しなかった。そして「まだだ」と彼は言った。「まだだめだ。リベットはすべて完全に平らにするんだ。リベットの空気抵抗をゼロにしたい。もっと平らに。平らにしろ! わかったか?」

 チームリーダーはうなずき、最初からやり直しとなった。

 ジェフはスティーブに、このハワード・ヒューズのようになるのがきみの仕事だと告げた。それからというもの、スティーブはアマゾンのすべてのプロダクトを“指でなぞる”ようになった。質を低下させそうな点がないか確認し、チームに最高の水準を維持するよう言い続けた。

 思うに、スティーブが私にこの話をした理由は2つある。

 1つはある種の警告だ。彼のチームの主要なメンバーである私とそのチームに、プロダクトが基準に見合わなければ最初からやり直しを命じると知らせたかったのだろう。

 もう1つは、私にも高い水準を追求する責任があると暗に伝えようとしたのだ。私自身もハワード・ヒューズに近づく必要があった。

(本原稿は『アマゾンの最強の働き方』からの抜粋です)