疲労ちゃんとストレスさん漫画家のにしかわたく氏とタッグを組んだ『疲労ちゃんとストレスさん』(河出書房新社)

 つまり、宿主である人類に対する“ウイルスの恩返し”だろうか。

「そうですね。人もウイルスもお互いに利益がないと、両者とも滅びるか、ウイルス側が消されてしまうかのいずれかの道をたどります。だとしたら、ヘルペスウイルスがこんなにも長い年月、存在し続けられるはずがないのです。ある意味ヘルペスウイルス6は究極のウイルス。生まれてすぐに感染し、突発性発疹を発症させるものの、それは大した病気じゃない。その後は延々と体のなかに潜伏し続け、大した悪さをしないまま、人と共存する究極のウイルスです。

 そんなウイルスがうつ病を引き起こし、ただ悪さをするだけのはずがありません」

 なるほど、ヘルペスウイルスは人類との共存戦略を粛々と実践する、賢いウイルスなのかもしれない。

「だから私は、新型コロナウイルスのような感染症のウイルスは嫌いです。しょうもない病気を引き起こして、駆逐されてしまう。まったくウイルスの風上にも置けない(笑)」

 ウイルス研究を始めて36年余り。近藤教授は疲労とうつ病に関する研究成果を一般の人に伝えるための手法として、漫画家のにしかわたく氏とタッグを組んで2冊のコミック本を出版した。ノーベル賞級の学者にしてはかなりユニークな試みだ。

「マンガを選んだ理由は二つあります。私はマンガしか読まないので、本を出すなら当然マンガだろうと。さらに二つ目として、皆に説明するならマンガがいいだろうと思いました。自分がそうだからです」

 太古から続く人類とヘルペスウイルスの関係は、近藤教授の研究によって壮大なロマンの様相を呈して私たちを引きつける。そこには、人類と自然界が共存共栄していくヒントまでも潜んでいるような気がしてくるのだ。

近藤一博(こんどう・かずひろ)
東京慈恵会医科大学ウイルス学講座主任教授
1985年、大阪大学医学部卒業。90年、同大学院博士課程修了。91年、同大微生物病研究所助手。93~95年、スタンフォード大学留学。96年、大阪大学大学院医学系研究科微生物学助教授。2003年、東京慈恵会医科大学ウイルス学講座主任教授。14年、同大疲労医学研究センター教授(兼任)。著書に『疲労ちゃんとストレスさん』(河出書房新社)、『うつ病は心の弱さが原因ではない』(河出書房新社)、『うつ病の原因はウイルスだった』(扶桑社)がある。