
日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月曜から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「見なくてもわかる、読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第102回(2025年8月19日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)
「私、失敗しないので」の中園ミホが書いた意外なセリフ
絶対なんてない。蘭子(河合優実)の言葉が印象的だった。
戦時中、蘭子は愛する豪(細田佳央太)に「絶対帰ってくる」と言われ、それを願って祈り続けた。けれど彼は帰ってこなかった。
戦後、蘭子はフリーライターになった。八木(妻夫木聡)が経営する会社の商品のキャッチコピー制作を請け負っている。3度、やり直しをさせられたコピーに、「絶対」を入れたらどうかと粕谷(田中俊介)に提案されたが、蘭子は拒む。
「私『絶対』って言葉は使いたくないです。その言葉ダメなんです」
八木はあっさりそれを受け入れた。
あとで八木自身も「絶対」という言葉に抵抗があることがわかる。八木は戦争に行ったとき、故郷・福岡に残してきた妻子のために「絶対生きて帰る」と思って帰ってきたら、妻子は福岡の空襲で亡くなっていた。
『あんぱん』の脚本家・中園ミホが「絶対なんてない」と書くのがおもしろい。「私、失敗しないので」という決め台詞で有名な大ヒット作『ドクターX~外科医・大門未知子~』で、絶対に手術を成功させる女を描いたからだ。