フォワードガイダンスに反する
マネタリーベースの縮小

 日銀が金融緩和を縮小することで、日銀のインフレ目標達成への信頼が損なわれるおそれもある。日銀は1月の展望レポートで、2022年の物価見通しを0.9%から1.1%に引き上げ、物価へのリスク認識も2014年から続けてきた「下振れリスクが大きい」から「上下にバランスしている」と7年ぶりに上方修正した。実際、日本の消費者物価は、夏場にかけて前年比1%台後半まで加速する可能性が高い。

 しかし、これはあくまでも原油をはじめとした原材料価格の高騰によるもの。日銀が目指す「賃金と物価の好循環」の結果ではない。黒田総裁も1月の記者会見で、「賃金の上昇を伴わずに資源価格の上昇を主因とする物価上昇が起こったとしても持続的なものにはなり得ない」と認め、「直ちに2%に近づくという状況は考えにくい」と述べている。

 それにもかかわらず、なぜ日銀は追加緩和ではなく金融緩和縮小に向かうのか。日銀からは、整合的な説明が示されていない。日銀は金融政策決定会合の声明文で、「マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する」とのフォワードガイダンスを記載している。黒田総裁はあくまでも「拡大方針」は維持されると述べているが、4月以降に起こるマネタリーベースの縮小は、このフォワードガイダンスに反すると言える。

ピーターパンは飛べなくなる
遠ざかる2%物価目標

 これまで黒田総裁は2%の物価安定目標を達成するため、期待に働きかける経路を重視してきたが、総裁自身が「2%にかなり遠い」と言っている今の段階でフォワードガイダンスに反して金融緩和を縮小させることは、こうした物価上昇への期待の腰を折ることにつながりかねない。

 黒田総裁は2015年の講演でピーターパンの一節を引用し、「飛べるかどうかを疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう。大切なことは、前向きな姿勢と確信です」と述べている。

 しかし筆者には、もはや黒田総裁から2%の物価安定目標の達成に向けた前向きな姿勢も確信も感じられない。これまでの黒田総裁のロジックを前提とするならば、4月以降の金融緩和縮小は、物価を2%の安定目標からさらに遠ざけるものになるだろう。

※内容は筆者個人の見解で所属組織の見解ではありません。

(三井住友DSアセットマネジメント シニアファンドマネージャー 山崎 慧)

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