ニュースサイトでその名を目にしない日はないLINEが、ビジネス向けの新しいサービスを12月上旬に始めた。それが「LINE@(ライン・アット)」だ。
LINE@とは、店舗・メディア・公共団体がLINE上にビジネスアカウントを開設し、顧客・読者・住民へ情報を発信することができるサービス。「友だち」に登録してくれたユーザーには、メッセージや画像、動画、さらに一般利用の機能にはないPR機能を使って、クーポンやセール情報などを届けることができるという。
LINE@で提供されるアカウントの種別は全部で3つ。飲食・アパレル・美容・宿泊施設などの実店舗を運営する事業主と大学等が該当する「ローカルアカウント」、新聞・テレビ・ラジオ・雑誌などの運営社が該当する「メディアアカウント」、そして地方自治体などの公共団体や高校以下の学校・教育団体が該当する「パブリックアカウント」だ。
いずれも、LINE側による審査に通ったもののみが利用することができる。また、オンラインメディア・ECサイト運営など、インターネットサービスを主事業としている企業は対象外となる。
LINEの公式アカウントは、これまでも企業のマーケティングツールとして注目を集めていた。ローソンの公式アカウントは、440万人を超える購読者を抱え、配信したクーポンは同社のモバイルメルマガの倍以上の使用率を記録。人気商品「Lチキ」のクーポンには、学生が各地の店舗に押し寄せる事態へと発展した。
LINEが企業からの注目を集めるのには、いくつか理由がある。ひとつは、ユーザー数。10月25日に世界7000万人を超え、さらにその後も1週間に200万人のペースでユーザー数を伸ばし、わずか5週間で8000万人を超えた。ユーザー数を急速に伸ばし、新たなメディアとしての存在感を示した。
もうひとつは、LINEは実店舗での購買行動に影響を及ぼすオンラインツール、つまりO2O(オンライン to オフライン)ツールとしての効果が期待されていること。スマートフォンならではのプッシュ通知機能を使ってお知らせすれば、ユーザーはほぼ確実に気づいてくれる。また、プッシュする時間帯の設定によっては、メッセージやクーポンの効果をさらに高めることができる。真偽を確認したわけではないが、ローソンのLチキクーポンも、学生や会社員がランチの買い出しに行くお昼休み前を狙って配布されていたようだ。
しかし、LINEの公式アカウントには難点がある。それはLINEという場に対する企業アカウントの相性だ。Facebookが1対nのコミュニケーションを楽しむプラットフォームであるのに対して、LINEは1対1、もしくは限られた仲間内でのコミュニケーションを楽しむ場だ。そのようなプラットフォームにおいて企業アカウントが歓迎されるためには、より精緻に設計されたメッセージの発信が求められる。
そしてもうひとつは、費用だ。これまでLINEが企業向けに提供していた「LINE公式アカウント」を開設するための費用は、初期費用200万円、月額料金150万円と高額に設定されていたため、日本コカ・コーラ、ローソンなど、利用できる企業は限定的であった。一方LINE@は、初期費用5250円、月額5250円、開始月を含む3ヵ月間は無料となっており、手軽に始められる金額設定である。また、地方自治体などの公共団体に提供される「パブリックアカウント」の利用料は無料だ。
もちろんこれだけ費用の差があるのには理由(わけ)がある。LINE公式アカウントの場合、LINE内の「公式アカウント」ページに掲載されるためファンを集めやすいというメリットがある。一方、LINE@を利用する企業のアカウントは掲載されないため、店頭POPなど他の媒体を通じて、自力で集客する必要がある。
敷居が低くなりすぎれば、アカウントの数が急増し、LINE上で埋もれやすくもなる。ユーザーに企業アカウントを見つけてもらうには、どのようなメッセージを発信すればよいか。また、ファンになってもらうには、どのような魅力的なインセンティブを提供すればよいか。これからアカウント運営者の腕が試されるようになるだろう。
(岡 徳之/tadashiku & 5時から作家塾(R))